それは、あたりに満ちている、ふしぎな芳香でした。

 地面には枝から落ちて茶色くなった葉が、まるでカーペットのように敷きつめられていました。

 その落ち葉が分解しているのか、腐葉土のような苦い匂いもしたのですが、そのなかに、どこか、ヒノキ風呂のようなさわやかな香りと、フルーツが熟したような甘い香りが入り混じっていたのです。

 決して嫌な感じはなく、むしろ、お香を焚いている寺院のようで、深呼吸をしていると、ふしぎと頭がすっきりとして、気分が落ち着いてくるようでした。

 3人でさらにこの森を歩いていくと、ところどころに、巨大な倒木が横たわっていました。

 <おや……ここはもしかしたら……そうだ!>

 ぼくは、目の前の風景を眺めているうちに、頭の片隅にピンと来るものがありました。

 1日1枚の撮影をしたプロジェクト『Chased By The Light』のなかの、ある1枚の写真を思い出したのです。

 長時間露光で、わざとぼかした森の風景のなかに、1本の倒木が横たわる神秘的な写真。

 特集を掲載した『ナショナル ジオグラフィック』1997年11月号の巻末で、ジムは、その写真を撮影したときのエピソードを紹介しています。

「心をいやしてくれる大切な場所」と題されたその文章は、こんなふうに始まっていました。

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