第3回 完全養殖ウナギの量産化はどこまで可能か?

 さらに20億尾もの仔魚を飼うとなれば、大量の飼料を用意するだけでなく、より大きな飼育水槽も求められる。これまで田中さんらがウナギの種苗生産の研究で利用してきた水槽は1つあたりの容量が20リットルの容量しかない。この水槽で育てられるシラスウナギは年間50尾程度。今ある10平方メートルの施設に設置できる精一杯の18面の水槽を運用しても、年間に生産できるシラスウナギは250尾が精いっぱいだ。

 単純計算して400平方メートルの施設があれば1万尾、400ヘクタールの施設を用意できれば1億尾のシラスウナギを生産できることになるが、現在の施設は研究のためのものなのでコスト計算は難しく、実用化できるものかどうか判断できないという。

 今後、小さな水槽でも仔魚からシラスウナギにまで育てる確率を高められればコストダウンは期待できるが、シラスウナギを大量生産するには水槽の大型化は不可欠だろう。 田中さんがこう続ける。

「私が直接関わっているわけではないのですが、水産総合研究センターの別のグループが1000リットルの大型水槽でシラスウナギにまで育てることに成功しました。2万8000尾のふ化仔魚を収容し、ふ化後200日が経って900尾をレプトセファルス(ウナギの幼生)に育て、一部がシラスウナギに変態したことが確認されました」

 ふ化仔魚からシラスウナギにまで育てられる確率はまだまだ低いとはいえ、1000リットルの大型水槽で飼育ができたことから、将来のシラスウナギの大量生産に期待が持てる研究成果と言えるだろう。

 克服すべき多くの課題が残されており、実用化にはもう少し時間がかかりそうだが、シラスウナギの大量生産に向けて、田中さんらの研究は着実に進展している。天然のウナギ資源に頼らない養殖を実現するため、研究のさらなる進展に期待したい。

つづく

斉藤勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。1968年、大阪生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、輸入代理店勤務を経て、フリーランスのライターに。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に執筆活動を行っている。著書に『寄生虫の奇妙な世界―寄生…驚きに満ちた不思議な生活』『イヌとネコの体の不思議: ひげの役割、しっぽの役割とは?』(誠文堂新光社)、『がん治療の正しい知識―22人の名医・研究者に聞いた』(エクスナレッジ)、『群れるいきもの』(宝島社)、『教えて!科学本 今と未来を読み解くサイエンス本100冊』(共著、洋泉社)などがある。