第6回 お風呂で快眠できるワケ
過去4回にわたって睡眠時間の長短に関わる3つの要因のうち、遺伝要因(必要睡眠量)と環境要因(生活習慣)について解説してきた。第3の要因“眠気に打ち克つ力”に入る前に、今回は少し寄り道をして快眠につながる生活習慣として広く知られている入浴の効能とそのメカニズムについてご紹介したい。
お風呂好きと言えば『テルマエ・ロマエ』のルシウスが旬だが、お風呂で快眠と言えばパッと頭に浮かぶ人物がある。さいとう・たかをの名作『サバイバル』の主人公サトルである。大震災をなんとか生き延び、放浪の末に辿り着いたある廃屋の中に温泉が湧き出ているのを見つけて大喜び。久しぶりの風呂を堪能したサトルであったが、湯温が高くのぼせてしまいそのまま睡魔に駆られてバタンキュー。蒸し暑い夜であったが泥のように眠りこけたのであった。
サトルに限らず、熱い風呂に入って一汗かいた後にスーッと眠気が差してまどろんだという経験をお持ちの方も多いだろう。古くから夏場の快眠法としてよく知られていた。実際に睡眠脳波を調べてみると、風呂に入って大いに汗を流した夜は寝つきにかかる時間が短く、深い睡眠も増えることが分かっている。考えてみれば不思議な話である。暑いときにさらに熱い思いをしてナゼ寝やすくなるのか?
睡眠中は筋肉が弛緩して産熱しないほか、末梢血管が拡張して放熱するため体温がが低下する。ここでの体温とは体深部にある脳や内臓の温度である(放熱のため皮膚温は逆に上昇する)。特に睡眠中に脳の温度が低下することは神経細胞の保護という観点から重要である。これはパソコンに例えると分かりやすい。パソコンを目一杯使うととても熱くなり冷却用ファンがうなりを上げることがある。ヒトに置き換えると、CPUが脳、睡眠が冷却ファンの役割を担うのだ。日中に加熱した脳の冷却のため睡眠が動員されるという図式である。

『朝型勤務がダメな理由』
三島和夫著
50万ページビュー以上を記録した「朝型勤務がダメな理由」をはじめ、大人気の本連載がついに書籍化! こんどこそ本気で睡眠を改善したい方。また、睡眠に悩んでいなくても自分のパフォーマンスを向上させたい方は、確かな知識をひもとく本書でぜひ理想の睡眠と充実した時間を手に入れてください。『8時間睡眠のウソ。』を深化させた、著者の決定版!
アマゾンでのご購入はこちら。
「睡眠の都市伝説を斬る」最新記事
バックナンバー一覧へ- 第136回 目覚めに混乱や絶叫など、大人でも意外と多い「覚醒障害」
- 第135回 年を取ってからの長すぎる昼寝は認知症の兆候の可能性
- 第134回 睡眠中に心拍数や血圧、体温が乱高下する「自律神経の嵐」とは
- 第133回 朝起きられないその不登校は「睡眠障害」?「気持ちの問題」?
- 第132回 「睡眠儀式」が子どもの寝かしつけに効くワケ
- 第131回 左脳は「夜の見張り番」、“枕が変わると眠れない”わけ
- 第130回 局所睡眠:実はよく使う場所ほど深く眠っている脳
- 第129回 睡眠を妨げる夜の頻尿、悪循環しがちな理由と対処法
- 第128回 「起きるか眠るか」のせめぎ合い、どのように軍配が上がる?
- 第127回 うつが「夜型生活」の避けがたいリスクである理由