「顎が小さいと歯が正しい位置に納まらずに飛び出したりしてしまいます。八重歯がかわいいなんて言うけれど、あれこそやわらかいものばかり食べた影響。最近では八重歯どころか、歯が二重に並んで生えてしまっている人もいます。江戸時代の上流階級の人間も歯並びが悪かった人はいるけれど、今ほどはひどくありません」

 顎が小さく歯並びが悪い顔が、病気を生む顔なのだ。だが、具体的にはどのような影響をおよぼすのだろうか。

「睡眠時無呼吸症を引き起こすのです。顎が小さいということは、口腔内容積が足りないということ。そうすると寝ている時に舌が喉の奥へ沈み込んで、息の通り道をふさいでしまいます。それが睡眠時の正常な呼吸をさまたげてしまうのです」

 睡眠時無呼吸症とは、睡眠中に10秒以上呼吸が止まる「無呼吸」が1時間に5回以上ある症状のこと。突然眠くなるなどの睡眠障害を引き起こすとされ、これを原因とした交通事故が何件も報告されている。2012年に関越自動車道で起きた高速ツアーバスの事故を覚えている人も多いだろう。運転手の居眠りによってバスが防音壁に衝突、乗客7名が死亡、38名が重軽傷を負った大事故だが、この運転手は睡眠時無呼吸症を患っていた。

 しかし、それだけではない。睡眠時無呼吸症がなぜ恐ろしいのかというと、睡眠時に呼吸が止まることによって血液中の酸素濃度が下がり、高血圧症や心筋梗塞、脳卒中などの循環器病を引き起こす危険があるからだ。症状にもよるが、健康な人に比べて循環器病の発生頻度が2~4倍も高いという報告もある。

 肥満の中年男性がかかるイメージが多いが、アメリカで行われた疫学調査によると30~60代の男性の24%、女性は9%に兆候が認められた。最近は女性や子どもに増えているといい、その原因のひとつに顎の小ささがあげられるという。10代、20代の顔が細くなったという記事やニュースはよく見かけるし、顎が華奢なほうが美人だという風潮さえ感じられる。しかし、そうした世間の美意識は、まったくもって間違いだと馬場さんは言う。

(画像提供:馬場悠男)(古人骨のレントゲン撮影:神奈川歯科大学)(画像クリックで拡大)

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