File5 食べ物と日本人の進化 馬場悠男
第1回 農耕以前から私たちは炭水化物をたくさん食べていた
「縄文人は総じてかたいものを食べていたんです。アザラシやイノシシの肉はかたく、保存のために干したりすればかたさはさらに増したでしょう。堅果類で作ったパンにしても粉をかためて焼くようなものですから、現在のパンのようにやわらかくはありません。こうしたものを日常的に食べていたので、縄文人の歯が磨り減るのは当然です」
かたいものを食べていたので縄文人の顎はしっかりしていて歯並びがよく、上下の歯がきちんと噛み合っていた。埼玉県の妙音寺洞穴で発見された約9000年前の人骨などはその典型で、歯並びが美しく、下顎骨の筋突起(コメカミの側頭筋という噛む筋肉の付くところ)が前方に拡大していて、噛む力が強かったことがわかるという。
「では弥生人の歯はどうだったかというと、意外にも縄文人よりも大きくて頑丈でした。そして、下顎の前歯より上顎の前歯が前に出ているような鋏状咬合が多い。食生活は同じでも縄文人と弥生人の顔や体つきはまったく違っていたんです」と馬場さん。縄文人の成人男性の身長は平均158cmほどで、手足が長かった。対して、弥生人の成人男性の身長は平均163cmほどあり、縄文人よりもずんぐりとした体型で手足が短い。いわゆる、胴長短足だった。
「顔つきにしても、縄文人は彫りが深くて目が大きく、髭が濃かった。対して弥生人は、のっぺりと平らな顔をしていて目は一重で細く、髭も薄かったんですよ」
確かに、教科書に載っていた縄文人と弥生人のイラストはそのように描き分けられていた記憶がある。農耕社会が影響を及ぼしたのか。いや、食生活に大きな変化はなかった。ならば、なぜそこまで違うのだろうか。
つづく
「日本の食の未来」最新記事
バックナンバー一覧へ- File8 食べる喜び 中川明紀
- 最終回 小さい頃から大好きだった祖母の手づくりコンニャク 後編
- 最終回 小さい頃から大好きだった祖母の手づくりコンニャク 前編
- File7 日本の食品ロス 井出留美
- 第3回 年間500万トンを超える食品ロスを減らすには
- 第2回 食品ロスを助長する根深い日本の食品消費文化
- 第1回 コメの生産量と同量の食品が日本で廃棄されている
- File6 日本発、次世代の緑の革命 芦苅基行
- 第3回 食料危機を救う緑の革命はまた起きるのか
- 第2回 なぜイネで次の緑の革命を目指すのか
- 第1回 組み換えと異なるもうひとつの遺伝子技術
- File5 食べ物と日本人の進化 馬場悠男
- 第3回 「病気を生む顔」になる食べ物とは
- 第2回 食べ物で顔はこんなに変わる