File5 食べ物と日本人の進化 馬場悠男
第1回 農耕以前から私たちは炭水化物をたくさん食べていた
糖質制限ダイエットが話題になっている。簡単にいえば、主食である米やパンを食べないことで、炭水化物に含まれる糖質の摂取を制限するというもの。糖質を摂り過ぎると血糖値が上昇して、肥満、ひいては生活習慣病を引き起こすといわれている。そのため、炭水化物を控えて肥満になるのを防ごうというのである。
そこで注目されているのが、『ナショナル ジオグラフィック日本版』9月号の特集にもあるように、古代の食事だ。人類が穀物を主食とするようになったのは農耕文化が始まったとされる約1万年前よりも後のこと。日本列島に稲作が本格的に伝来したのは約2800年前だ。約200万年前にホモ属の人類が誕生し、狩りを始めてからそれまでの間は、動物や魚介類といった動物性タンパク質が中心であり、現在のさまざまな病気が起こるのは人類がほんの数千年にすぎない炭水化物の摂取に適応していないがため。だから、農耕文化以前の古代食に戻せば健康になるという考え方である。
日本人の主食である米。私などは米を食べなければ力が出ないと感じるほど頼れる食べ物だが、本当に体に適していないのだろうか。そこで、国立科学博物館の名誉研究員で人類形態進化学を専門とする馬場悠男さんを訪ねた。馬場さんは人骨や化石を調べて、その特徴から日本人の形成過程などの人類の進化を解明する研究をしている。
日本列島に初めて人類がやってきたのは約3~4万年前といわれている。その人々が、1万5000年ほど前から日本列島の自然と共存する独自の文化を形成し、生き抜いてきた。彼らが縄文人であり、その文化が縄文文化だ。縄文人は私たち日本人の最古の先祖であり、1万年以上も続いた縄文文化は現代日本の基層文化であるのだ。
いままでに発見されている縄文人の骨で最も古いのは、縄文早期といわれる約9000年前のものだという。私たち日本人が何を食べてどう生きてきたのか、そして何を食べるべきなのか。縄文早期から現代にいたるまでの、人骨から見てとれる日本人の食文化の歴史を馬場さんに聞いた。
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