感染症の拡大を防ぐため養鰻池の水を消毒できるか?

 さらに良永教授はウナギに感染するウイルスのリスクについても報告した。1970年代頃からウナギ類に感染する複数種のウイルスが報告されているが、その由来は明らかではなく、病原性についてもはっきりわかっていない。ウイルスが原因で死亡する例が報告される一方で、健康な個体からも同じウイルスが分離されており、そのリスクの評価は難しいのだが、ヨーロッパウナギを対象とした研究で興味深い報告があるという。良永教授がこう続ける。

「病原性はあまり強くはないと考えられているEVEXと呼ばれるウイルスが感染したウナギを用いて、長距離を泳がせる実験が行われたのですが、感染していないウナギが4500kmを泳いでも平気なのに対して、感染したウナギは1000~1500kmまでに発症して死んでしまいました。これではサルガッソー海までたどり着けなかったでしょう」

 陸上で観察しているだけでは病原性が低いと評価されているウイルスでも、前述の寄生虫と同じように産卵場所までたどり着けなくするという点で、ヨーロッパウナギの減少に関わっているかもしれないことが示唆されているのだ。

 同様のことがニホンウナギでも起これば、減少の一因になりうるだろう。そのため感染症の拡散を水際で食い止めなければならないが、最も有効な生きたウナギの輸入を規制することは、賄いきれない需要に応えるための輸入なだけになかなか難しい。

 どうしても輸入しようとするなら、ウナギはもちろんのこと、輸送や飼育時に使った水をそのまま自然界に出さないことが必要だ。十分に消毒処理した上で排水することが求められているため、良永教授は塩素消毒のための資材費を試算した。

「養鰻池の換水率は1日に5~10%と伺っています。1000トンの養鰻池なら1日に100トン程度が排水されます。農林水産省が推奨するコイのヘルペスウイルス対策に倣って、十分な消毒効果が得られる塩素濃度を15ppmとすると、1日に100トン程度の水を消毒するには、年間120万円の消毒資材が必要です」

 良永教授の試算は高く見積もってはいるものの、排水のすべてを消毒する手間も考慮すると、年間120万円という消毒資材費は決して小さなコストではないはずだ。人為的なミスも考えると、ウナギとともに輸入された病原体を完全に封じ込めることは不可能と言っていい。

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