ニホンウナギ由来の寄生虫がヨーロッパウナギを減少させた

 日本の川に遡上するニホンウナギが減少してもなお、国内の需要に応えるために世界各地から種類の異なるウナギが輸入されているが、そこで心配されるのがウナギとともに持ち込まれる感染症だ。

 現地で蒲焼に加工されてから輸入されていれば感染症の心配はないが、近年、ニホンウナギに近縁のビカーラ種やモザンビカ種が生きたまま輸入されており、彼らの体内や輸送時に用いた水の中には何らかの病原体が潜んでいるのではないかと心配されているのだ。

東京大学大学院農学生命科学研究科の良永知義教授

 そこで公開シンポジウム「うな丼の未来2」では、魚の病気の専門家である東京大学大学院農学生命科学研究科の良永知義教授が登壇。まずヨーロッパウナギ減少の一因とされる感染症などについてこう語った。

「ニホンウナギが減少してきて、養殖業者により1969年に初めてヨーロッパウナギの稚魚(シラスウナギ)が日本に輸入されたことがありました。しかし、ニホンウナギが持っているアンギリコロイデス・クラッサス(Anguillicoloides crassus)という寄生虫がヨーロッパウナギに感染。多くが死んでしまい、日本でのヨーロッパウナギの養殖は成功しなかったのです。そこで、日本の研究者が1979年に発表した論文でニホンウナギがヨーロッパに持ち込まれると大変なことになると警告したのですが、残念ながら、この寄生虫はヨーロッパに侵入してしまいました」

 ヨーロッパに侵入した詳細な経緯は明らかになっていないものの、1980年代初めに東アジア、おそらく台湾からドイツにニホンウナギともに寄生虫が持ち込まれ、その後、ヨーロッパ各地へと拡散していったと報告している論文があるという。

 アンギリコロイデス・クラッサスは宿主がニホンウナギであれば浮袋に寄生していても、深刻なダメージを与えることはない。ニホンウナギとの間で長い年月をかけて折り合いをつけることで、病気をもたらすことはなくなっているからだろう。

 ところが、ヨーロッパウナギとは折り合いがついていないために、感染すると浮袋に深刻な障害を与えることになる。時には大量死が発生することもあったというが、死なないまでも浮袋に障害が及べば遊泳能力に悪影響が及ぶはず。ヨーロッパウナギは大陸から数千km離れたサルガッソー海で産卵するため、寄生虫に感染されたものの多くは産卵場所にまでたどり着けなかったのではないかと考えられているのだ。良永教授がこう続ける。

「ヨーロッパウナギが減少を始めるのは1970年代ですから、アンギリコロイデス・クラッサスだけが原因とは言えませんが、少なくとも80年代後半以降の減少には大きく関与していると認められるようになっています」

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