研究面でも、社会的なリスク管理の面でも、BSL-4の施設が必要かといえば「必要」と納得する人の方が多いだろう。実際、自国で危険なウイルスを扱えない国は、感染が起きた時のリスクマネジメントとして問題があるのは間違いない。しかし、「どこに?」となると、やはり人口稠密(ちゅうみつ)な日本では、地元の理解を得るのが難しい。「絶対安全」ということは何にしても有り得ないのだから、「どの程度」安全なのか、また、そのような施設を持つ意味が、国際的に、国内的に、地元として、どれだけあるのかということを丁寧に説明していかなければならないのだという。

 さて、長崎大学熱帯医学研究所というエキゾチックな名前の研究所への興味から入ったけれど、結果的に、獣医学出身の新興ウイルス研究者である安田さんの幅広い活動領域に目を瞠(みは)ることになった。

 膜を持つエンベロープ・ウイルスの抗ウイルス剤。生物テロ対策のポータブル生物剤検出器。アフリカの出血熱のアウトブレイクでの現地との協力。日本国内で出血熱に似た症状を示すウイルス病。国内で最高危険度の病原体を扱うことができるBSL-4施設の建設。

 どれをとっても重要で、個別にもっと長いインタビューを構成できるだけの深みをもったテーマでもある。それを一気に記述してみて、やはり駆け足のきらいがあるが、その「速さ」をもって、この分野が持つ緊急性や重要性を表現できたような気もしている。

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おわり

安田二朗(やすだ じろう)

1966年、愛知県生まれ。長崎大学熱帯医学研究所教授。博士(理学)。1991年、北海道大学獣医学部卒業。1994年、総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程を修了後、米国アラバマ大学、東京大学・医科学研究所を経て、2000年に北海道大学遺伝子病制御研究所助教授。2003年より、ウイルス学の研究を続けつつ、バイオテロ対策のため警察庁科学警察研究所・法科学第一部・生物第五研究室の室長として生物剤検知システムの開発に携わり、2010年より現職。2014年、「モバイル型生物剤検知システムの開発」の業績により、平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(科学技術賞)を受賞。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

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