第5回 バイオテロ用の画期的な小型検知器を開発

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 この開発は大成功で、安田さんたちのチームは、前にも述べた通り、平成26年度、科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)の表彰を受けた。現在は、全国で主要な都道府県警察のNBCテロ対応専門部隊に導入されているそうだ。

 なお、安田さんが考えるところ、バイオテロの生物剤で、テロリスト側から一番「使いやすい」のは、炭疽菌だそうだ。すでに「実績」があるだけのことはある。

「炭疽菌は熱にも乾燥にも安定ですから。一方で、ウイルスって、すぐに死んでしまうんです。僕ら、ウイルスの実験をしていますが、ウイルスの感染性を保持するために、マイナス80℃とかの超低温のフリーザーで保管しないといけないんです。炭疽菌は、普段、土の中に30年ぐらい感染性を持ったまま生存できるし、培養液や普通の細菌を育てる培地があれば、大量につくれます。ウイルスは生きた細胞がないといけないので、専用の培養器も必要でお金がかかります」

 なにしろ、1960年代まで、ロシア、アメリカが、ミサイルの弾頭に炭疽菌の芽胞(菌が非常に高い耐久性を持つ状態)、を入れて、生物兵器として使う研究をずっとしていたそうだ。ミサイルが着弾した時に発生する熱に、ウイルスを始めとするほとんどの病原微生物は耐えられない。しかし炭疽菌は余裕で耐えてしまう。なかなか物騒な話だが、その物騒なものに我々は対応しなければならない。

 もっとも、だからといって単に炭疽菌テロに注目していればいいという訳ではないのは明らかなのだが。

バイオテロに使用される可能性の高い病原体の種類(米国CDCによる分類)(画像提供:安田二朗)(画像クリックで拡大)

つづく

安田二朗(やすだ じろう)

1966年、愛知県生まれ。長崎大学熱帯医学研究所教授。博士(理学)。1991年、北海道大学獣医学部卒業。1994年、総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程を修了後、米国アラバマ大学、東京大学・医科学研究所を経て、2000年に北海道大学遺伝子病制御研究所助教授。2003年より、ウイルス学の研究を続けつつ、バイオテロ対策のため警察庁科学警察研究所・法科学第一部・生物第五研究室の室長として生物剤検知システムの開発に携わり、2010年より現職。2014年、「モバイル型生物剤検知システムの開発」の業績により、平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(科学技術賞)を受賞。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
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