第5回 バイオテロ用の画期的な小型検知器を開発

「以前、日本の警察庁が導入していたのはすべてアメリカ製だったんです。しかも2つぐらい型落ちしたやつをアメリカでの価格の倍くらいで買っていたんです。あんまり感度もよくなくて使い勝手も悪い。警察庁のテロ対策の部隊は、生物剤を扱うときに、宇宙服みたいな陽圧スーツを着て作業するもんですから、細かい作業ができないんで、そういう配慮も必要です。おまけにコストです。僕らが開発したものの価格は1500万円ですが、アメリカ製のは2000万円。しかも一度に1つの生物剤についてしか検査できなくて、それぞれに2~3万円かかってたんです。でも、僕たちのやつは、1回1万円ぐらいで、19種類同時に検査できます。これまで型落ちのものを買わされていた立場から、それを売って欲しいと言われる立場になりました」

 試薬をセットしたカセットを入れてボタンを押したら45分で、19種類の生物剤のどれがあるのか、あるいはないのか検出できる。ひとつひとつ確かめていたらその19倍の時間がかかるわけだし、それにともなってランニングコストもあがる。使いやすさ、時間の短縮、本体価格やランニングコストといった点で、圧倒的な強みがある。なるほど、これはすぐれものというのもわかる。

 非常に興味深いので、少し詳しく仕組みを教えてもらった。

(画像提供:安田二朗)(画像クリックで拡大)

「中で行っていることは、2段階あって、まずは、生物剤の遺伝子の増幅です。よく使われるPCR法は温度制御が難しいので、等温でできるLAMP法です。その後で、DNAチップというものを使って、一斉検知します。これは東芝がパテントをもっている独自のものなんです」

 1段階目で、試料に微量しか含まれていない遺伝子を増やす。遺伝子の増幅はPCR法が歴史もながく有名だが、ここでは比較的最近開発されたLAMP法。温度管理が楽だったり、増幅の効率がよかったり、間違ったものを増幅してしまわない(特異度が高い)という特徴があって有利だそうだ。

 そして、2段目。DNAチップというのはどういうものだろう。これはちょっとSF的に感じる。DNAというのは生体の中にあるもので、チップといえば電子回路。それらがくっついているわけだから。

「金の電極から、生物剤の遺伝子に固有のDNAを、化学的に合成して安定にした状態にして、にょろにょろと伸ばしてあるんです。増幅したサンプルの中に、生物剤に対する遺伝子があれば、くっついて2本鎖をつくりますよね。その時に、酸化還元電流が流れるんですね。金電極でそれを拾うことでシグナルとして検出できます。ターゲットのDNAがサンプル中にあれば、こういうふうにシグナルが出るという単純なシステムです」

 聞いてみると、やはりSF的な話だった。DNAと金電極!