それから数日の間、朝晩の気温は肌寒く、どんよりとしたくもり空が続いていました。

 ときおり、わずかに陽の差し込むことがあったかと思えば、急にまっ黒な雲がやってきて、雨を降らせながら通り過ぎていきました。

 いまにして思えば、その変わりやすい天気は、ちょうどそのときの自分の心境に、よく似ていました。

オダマキの花が咲いていた。花弁の付け根が天に向かって伸びている様は、まるで王冠のようだった。ふくらんだ先には、虫たちを誘う密がたまっているらしい。(写真クリックで拡大)

 焦っても仕方がないと、自分に言い聞かせては、落ち着きを取り戻す。

 しかし、ふとした隙に、これから待ち受けているであろう、長い道のりに対する不安が、繰り返し押し寄せてくるのです。

 小屋のなかにじっとしていても、気分が滅入るだけだったので、ジムが教えてくれたハイキングトレイルには、毎日出かけました。

 ブラックストーン湖、シークレット湖、エニス湖……と、小さな湖たちをつなぎあわせるように作られたトレイルは、いくつもの分岐があって、最も長いルートをとると、一周するのに2時間ほどかかりました。

 よく踏みならされた道は明瞭で、森のなかを歩いていたかと思うと、崖を駆け上がり、湖を見下ろすことのできる気持ちのいい高台に辿り着きました。

 なるほど、ジムが「きっときみも気に入ると思うよ」と言ってくれた通り、風景は変化に富んでいて、何度歩いても飽きることがありませんでした。

 やはり、外の世界を自分の足で歩いてみると、予想もしていなかったような発見があるものです。

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