第1回 ニホンウナギを守るために今できること

「石倉かご」の設置で河川環境は改善する

 ただし、自然災害を防ぐために河川改修が行われている以上、親ウナギを守るといっても、元の自然の状態に戻すことは決して簡単なことではない。治水とウナギの保護を両立することはできないのか。望岡准教授はこう提案してくれた。

「伝統的な漁法として『石倉かご』が利用されてきました。これは石を入れた籠を川の底に沈めておき、石の間にウナギが入ったところで網を仕掛けて捕える漁法なのですが、ウナギが入るということは、それだけ住み心地の良い環境なのでしょう。この石倉かごを参考にポリエステルの網に石を入れたかごを沈めて、川をウナギの住みやすい環境にしていく取り組みが始まっています」

鹿児島県の広瀬川に設置した石倉かご。(写真提供:全国内水面漁連・鹿島建設(株))(画像クリックで拡大)

 網に入れずに石を川に入れるだけでも、少なからず河川環境を改善する効果は期待できるが、ばらばらの石では川の流れで散逸。ウナギの隠れ場所としての機能を果たせなくなってしまうだろう。

 望岡准教授の調査によればウナギだけでなく、カニやエビなどのエサ生物も観察されていることから、石倉かごの導入はエサ生物の増加にも役立つはずだ。また、ウナギの遡上の妨げになっている堰(落差工)でも、石倉かごを応用した魚道の設置することで遡上しやすくなるという。

 今後、全国の川で石倉かごが導入されることが期待されるが、そう簡単に進まない問題があるようだ。大越さんがこう指摘する。

「我々の連合会でも川の環境を改善するため石倉かごの設置を進めています。ただし、石倉かごを設置するには、川を管理する国土交通省の許可が必要です。設置許可を願い出ても半数近い川で拒否されてしまい、石倉かごの設置が進んでいないのが実情です」

 石倉かごの設置が自然災害のリスクを高めてしまう川もあるかもしれない。すべての川に設置するのは無理としても、半数程度の川で拒否されるのは多すぎではないだろうか。大越さんがこう続ける。

「我々は石倉かごを沈めっぱなしするのではなく、石の間に砂が入って隠れ家としての機能が薄れるのを防ぐことを目的に、クレーンで引き上げられるようにしています。これなら自然災害の発生が心配される時には撤去できますから、自然災害のリスクを抑えつつ、石倉かごを設置することもできるのではないでしょうか」

 治水対策も行いつつ、石倉かごの設置が進み、ウナギの住みやすい川が増えてもらいたいものだ。

つづく

斉藤勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。1968年、大阪生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、輸入代理店勤務を経て、フリーランスのライターに。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に執筆活動を行っている。著書に『寄生虫の奇妙な世界―寄生…驚きに満ちた不思議な生活』『イヌとネコの体の不思議: ひげの役割、しっぽの役割とは?』(誠文堂新光社)、『がん治療の正しい知識―22人の名医・研究者に聞いた』(エクスナレッジ)、『群れるいきもの』(宝島社)、『教えて!科学本 今と未来を読み解くサイエンス本100冊』(共著、洋泉社)などがある。