では、エネルギー消費量が大きいほど睡眠時間が長いという関係が人の中でもみられるのか? 動物実験と違って環境や食事の影響を厳密に調整することが難しいため決定打となるデータが得られていないが、やはり同様の傾向があるようだ。実際、年齢とともに睡眠時間が短くなるのもエネルギー消費量の低下が深く関わっていると考えられている。

 図3を見ていただきたい。様々な身体機能が年齢とともにどのように低下するか30歳の時を100%として示してある。ここに図1にある睡眠時間のデータを重ねてみると、基礎代謝の低下とぴったり重なることがお分かりいただけると思う。基礎代謝量とは呼吸や体温など基本的な生命維持活動のために消費される必要最小限のエネルギー消費量のことで、年齢とともに緩やかに低下する。

図3:加齢に伴う身体機能の低下。Strehlerのデータから筆者が作成。(イラスト:三島由美子)(画像クリックで拡大)

 基礎代謝の低下と言えば聞こえが悪いが、超エコ型に進化したと前向きに考えれば気が楽になる。乳幼児に比較して高齢者では体重当たりのエネルギー消費量が3分の1になる。若い頃ほど眠れなくなったとお嘆きの中高年の方も、爆睡している若者を羨ましがるなどせず「燃費が悪いなぁ」と泰然と構えていただきたい。

 とは言え、もっと眠りたいと諦めきれない読者の方へ。確かに定期的な運動や筋トレにより基礎代謝を上げることができれば、理論的には睡眠時間の延長効果が期待できる。しかし実際には、基礎代謝を若者並に高めることは難しいし、他の心身の要因も睡眠時間に影響するため自ずと限界がある。とはいえ手が無いわけではない。適度な運動習慣や食習慣によって日々のエネルギー消費量を増やしてやれば、睡眠時間はさほど長くはならないが、深く、連続性のよい睡眠を得るのに役立つことが知られている。

 そこで次回は快眠につながる生活習慣について考えてみる。生活習慣は睡眠の長さだけではなく、深さや持続性にも深く関わっている。恋の駆け引き同様に、長く深い眠りは追いかけるモノではなく追いかけられるモノだというお話しである。

つづく

『8時間睡眠のウソ。
日本人の眠り、8つの新常識』

著者:三島和夫、川端裕人

睡眠の都市伝説を打ち破り、大きな反響を呼んだ三島和夫先生の著書。日々のパフォーマンスを向上させたい人はもちろん、子育てから高齢者の認知症のケアまでを網羅した睡眠本の決定版。睡眠に悩むもそうでない方も、本書を読んでぜひ理想の睡眠を手に入れてください。
アマゾンでの購入はこちら

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る