第5回 ゾウの睡眠、ネズミの睡眠

 前置きが長くなったが、ここからが本題である。睡眠時間に個人差があること、年々短縮すること、この2つの間には共通のメカニズムがあるようなのだ。そのヒントは他の動物の睡眠時間についての研究から得られている。

 動物種間で睡眠時間は大きく異なるが、睡眠時間と体重当たりの酸素消費量(エネルギー消費量)の間に明瞭な正の相関があるのだ(図2)。エネルギー消費量が大きい動物は、体重当たりに換算して大量のエサを食べなくてはならず、燃費が悪いことを意味している。

図2:体重あたりの酸素消費量と睡眠時間の関係。ZepelinとRechrschaffenらのデータから筆者が作成。(イラスト:三島由美子)(画像クリックで拡大)

 それにしても睡眠時間にこれほど大きな種差があるのは驚きである。私が初めてこの図を見たときには意外な印象を受けた。エネルギー消費量が大きいネズミはちょこまか動き続けている短時間睡眠タイプ、消費量が小さいゾウはゆったり長寝タイプと勝手にイメージしていたためだ。実際には図をみてお分かりの通り、真逆である。

 この図が意味しているところは、ガソリンをよく食う燃費の悪い動物ほど長く寝なくてはならないと言うことだ。ネズミは車体こそ小さいが燃費は極めて悪い。このような車が動き続けたらすぐにガス欠(=死)になる。そこでネズミはなるべくエンジンをかけない、動かないという生き残り戦略をとったのだ。長い無動状態を作ることでエネルギー消費量を落とし、少ない食料で基礎代謝を支える、これが睡眠の始まりと考えられている。目が覚めたら残ったガソリンでかっ飛ばし数多くのガソリンスタンド(エサ)に立ち寄るのだ。一方、ゾウは大型ダンプだが実は燃費の良い超エコ型エンジンを搭載している。ゆっくりと周回してガソリンスタンドを探せばよいわけだ。

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