小手先のテクニックで睡眠不足は補えない

 多くの実験ボランティアで必要睡眠量を測定してみると面白い事実が見えてきた。例えば、20代~30代の男性ボランティアを調査したところ、普段の睡眠時間には3時間程度の開きがあった。一方で彼らの必要睡眠量を調べて見るとその個人差は2時間。すなわち睡眠時間のばらつきの2/3は必要睡眠量の差だった。残り1/3(1時間)が環境要因によって生じていた。一般的に睡眠時間の違いは環境の影響が大きいと思われてきたが、実際には必要睡眠量の役割が大きいことが分かったのだ。睡眠遺伝子たちよ、結構頑張っているではないか。体が求める睡眠時間に大きく逆らって生活することは難しい。小手先のテクニックで睡眠不足を補うことは出来ないのだ。

 もう少し踏み込んで、睡眠時間の長短に関わる具体的なメカニズムとは何であろうか?幾つかの有力な神経伝達物質の遺伝子多型が睡眠時間に関連していたとか、ある種の時計遺伝子の突然変異を有していると短時間睡眠になるとか、ユニークな研究結果が報告されているが未だ解明の道のりは遠い。ただ間違いなく言えるのは、細胞、ホルモン、自律神経、代謝など多岐にわたる生体機能が総動員されて睡眠時間は決定されており、各パーツの機能の違いが積み重なって睡眠時間の大きな個人差が形作られているという点だ。

 紙幅の関係上、一例だけ挙げよう。睡眠に深く関わるホルモンである副腎皮質ホルモン・コルチゾールや成長ホルモンを一卵性双生児で測定してみると、一見して分泌パターンが非常に似ていることが分かる(下図)。顔だけではなくホルモン分泌までソックリとは、実に遺伝子の力を感じるではないか。では二卵性双生児ではどうか。遺伝子の共有度は兄弟と同じなのでそれなりに似ているものの、一卵性双生児に比べて細かい違いが目立つ。この違いの1つ1つが睡眠時間の個人差につながっているのだ。

コルチゾールは強力な覚醒作用をもつホルモンで、睡眠の前半では分泌が抑えられ、明け方に向けて一気に増えて覚醒を促す。成長ホルモンは眠り始めに出る深睡眠の時にまとまって分泌される。睡眠を支えるこれら多くのホルモンの分泌パターンが似ていれば、睡眠時間も近くなる。なお、血縁関係にない他人同士ではこのような一見して分かる類似性はない。(イラスト:三島由美子)(画像クリックで拡大)

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