必要睡眠量を測定するにはこれらの“雑音”を取り除き、十分に長い期間(少なくとも1、2週間)にわたって自然発生的な睡眠時間を観察する必要がある。実験室で必要睡眠量を測定するときには、周囲からの刺激をシャットアウトした環境(隔離実験室)で毎日最低12時間消灯して眠れるだけ寝てもらう。日中の運動量も最低限に抑え、食事も標準必要摂取カロリーと栄養素量に調整にする。そのような生活を何日も続けていると、当初は睡眠不足のリバウンドにより長時間寝ていた人でも睡眠時間は徐々に短縮してくる。エビ天理論で言えば“衣”が取れてくるのである。私たちの実験ではエビが剥き出しになるのに平均1週間弱必要であることが明らかになっている。

 普段の生活をしながら必要睡眠量を割り出せれば楽なのだが、これはミッション・インポッシブル。だって、目覚ましにも、スマホにも、子供にも、ペットにも、カーテンから差し込む朝日にも邪魔されずに寝たいだけ寝るなどという優雅な生活は普通のサラリーマンや主婦には望むべくもないから。ましてやそれが1週間……。例えば私の場合、「3日間好きなだけ寝倒した」それすらいつであったか全く思い出せない。

 経験的に感じている「私なりの満足できる睡眠時間」を答えてもらっても、たいがいは精密な測定結果からずれてしまう。睡眠不足後の爆睡体験など極端なイメージが邪魔をするからである。必要睡眠量は週末にやりがちな寝だめよりも短いのが普通である。現代人の多くは蓄積した睡眠不足を抱えており、それを解消するには何日もかかる。週末2日程度の寝だめでは睡眠不足を完全に解消するのは難しい。え? 2日で眠気はとれる? それは自覚的な眠気が消えただけであり、代謝やホルモン分泌への影響などは残存していることも明らかになっている。時間をかけてゆっくりと睡眠不足を解消しないと真の回復は得られないのだ。

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