第4回 譲れない眠り、「必要睡眠量」を測る

 冒頭で慢性的な睡眠不足は深刻な“現代病”だと申し上げた。「睡眠不足は自己責任であって病気じゃないだろう」「自己管理がなっておらんからだ」などという反論もあろうかと思うが、いやいや、必ずしもそう一方的に断ずることはできない。多忙な現代社会では、体質的に長時間睡眠が必要な人はそれだけである種のハンディキャップを背負っていると言えまいか。同じ分量の仕事や家事をこなし、同じ就床時間を確保しても、必要睡眠量が長いが故に十分な疲労回復ができず心身の不調に陥っている人がいれば、それは立派な“生活習慣病患者”である。遺伝的に糖尿病リスクを抱えている人が周囲と同じ食習慣を守っていても発症してしまうのと何の違いがあろうか。前者は精神力で克服できますか?

 かように睡眠時間というのは気合いだけでは御しがたい“体質”なのである。当初の予想よりも小さいとは言え、必要睡眠量2時間の開きがもたらすインパクトは大きい。1時間通勤の往復分、映画なら丸々一本、麻雀なら半チャン2回はこなせる時間だ。今回解説したように、必要睡眠量の個人差がどのようなメカニズムで生じるのかその詳細は明らかになっていない。しかしこれまでの研究から、少なくともその一部は私たちの祖先が自然淘汰をくぐり抜けるためにとった生き残り戦略に関連していることが明らかになっているらしい。その戦略は睡眠の長さや深さ、そして加齢変化にも関係し、また快眠スキルのヒントにもなっているのだ。これは次回のテーマとしたい。

つづく

『8時間睡眠のウソ。
日本人の眠り、8つの新常識』

著者:三島和夫、川端裕人

睡眠の都市伝説を打ち破り、大きな反響を呼んだ三島和夫先生の著書。日々のパフォーマンスを向上させたい人はもちろん、子育てから高齢者の認知症のケアまでを網羅した睡眠本の決定版。睡眠に悩むもそうでない方も、本書を読んでぜひ理想の睡眠を手に入れてください。
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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。