第4回 譲れない眠り、「必要睡眠量」を測る
小手先のテクニックで睡眠不足は補えない
多くの実験ボランティアで必要睡眠量を測定してみると面白い事実が見えてきた。例えば、20代~30代の男性ボランティアを調査したところ、普段の睡眠時間には3時間程度の開きがあった。一方で彼らの必要睡眠量を調べて見るとその個人差は2時間。すなわち睡眠時間のばらつきの2/3は必要睡眠量の差だった。残り1/3(1時間)が環境要因によって生じていた。一般的に睡眠時間の違いは環境の影響が大きいと思われてきたが、実際には必要睡眠量の役割が大きいことが分かったのだ。睡眠遺伝子たちよ、結構頑張っているではないか。体が求める睡眠時間に大きく逆らって生活することは難しい。小手先のテクニックで睡眠不足を補うことは出来ないのだ。
もう少し踏み込んで、睡眠時間の長短に関わる具体的なメカニズムとは何であろうか?幾つかの有力な神経伝達物質の遺伝子多型が睡眠時間に関連していたとか、ある種の時計遺伝子の突然変異を有していると短時間睡眠になるとか、ユニークな研究結果が報告されているが未だ解明の道のりは遠い。ただ間違いなく言えるのは、細胞、ホルモン、自律神経、代謝など多岐にわたる生体機能が総動員されて睡眠時間は決定されており、各パーツの機能の違いが積み重なって睡眠時間の大きな個人差が形作られているという点だ。
紙幅の関係上、一例だけ挙げよう。睡眠に深く関わるホルモンである副腎皮質ホルモン・コルチゾールや成長ホルモンを一卵性双生児で測定してみると、一見して分泌パターンが非常に似ていることが分かる(下図)。顔だけではなくホルモン分泌までソックリとは、実に遺伝子の力を感じるではないか。では二卵性双生児ではどうか。遺伝子の共有度は兄弟と同じなのでそれなりに似ているものの、一卵性双生児に比べて細かい違いが目立つ。この違いの1つ1つが睡眠時間の個人差につながっているのだ。
「睡眠の都市伝説を斬る」最新記事
バックナンバー一覧へ- 第122回 知られざる子どもの不眠症、とても苦しい「特発性不眠症」とは
- 第121回 コロナ禍ウシ年の睡眠“ニューノーマル”
- 第120回 「寝言は夢での会話」のウソ
- 第119回 徹夜明けに目が冴えたり爽快感を覚えたりするのはナゼなのか
- 第118回 睡眠不足は立派な「病気」です!
- 第117回 その“ぐっすり眠れない”は「不眠症」ではなく「睡眠不足」かも
- 第116回 昼寝の寝つきが8分以内は要注意、病的な眠気の可能性も
- 第115回 つかめそうでつかめない睡眠と覚醒の境目
- 第114回 新型コロナがむしばむ睡眠やメンタルヘルスの深刻度
- 第113回 新型コロナでも報告例、ウイルス性脳炎では何が起こっているのか?