第4回 譲れない眠り、「必要睡眠量」を測る
前回は睡眠時間も遺伝するという話をした。遺伝要因が強いことで知られる身長や知能などにはやや及ばないが、睡眠時間の長短もまたれっきとした体質の1つなのだ。ただし睡眠時間のすべてが遺伝子の支配下にあるわけではない。私たちの睡眠時間は、基本的な生命活動を営むために必要なコア部分(必要睡眠量)と生活習慣や環境に影響される可変部分の二重構造からなり、遺伝的影響が大きいのは必要睡眠量だとご説明した。
必要睡眠量は健康生活を維持するために欠かすことのできない睡眠の屋台骨であり、他の休養法では代償の効かない“譲れない眠り”である。睡眠不足の影響は甚大である。短期的には翌日の眠気や倦怠感、能率低下、交通事故などのヒューマンエラーの主要な原因となり、中長期的には生活習慣病やうつ病、認知症などのさまざまな疾病のリスクを高める。慢性的な睡眠不足は深刻な“現代病”と言えるのだ。
そのため、必要睡眠量の調節メカニズムは脳科学と医療の両面から大いに関心が寄せられてきた。自分の必要睡眠量を知ることは、何時間眠れば心身ともにリフレッシュされ、翌日に向けてフル充電されるのか知ることにつながるからだ。こころと体に優しい生活設計ができるはずである。しかし睡眠時間の長さに関わる遺伝子探索を難しくしている技術上の課題があることにも前回触れた。鍵となる必要睡眠量を測定するのが大変なのだ。
ドラえもんの四次元ポケットから取り出した睡眠時間判定機に「アナタノヒツヨウスイミンリョウハ5ジカンデス」「ジョギングヲシテモ6ジカンイジョウハムリデス」などとご託宣を受ければ諦めもつき、効くか分からない快眠グッズに小遣いを浪費せずに済むはずだが、未だそのような小道具が登場したことはない。子供にウケそうもない地味なマシーンなので致し方ないのだが。
ちなみにドラえもんの小道具には睡眠関係のものも多い。過去には、1錠のめば1時間で10時間分の睡眠が取れるようになる“睡眠圧縮剤”とか、予定を言いつけて目に貼ると眠りながら仕事をこなせるようになる“居眠りシール”などきわめて実用的なツールが登場している。それだけの科学力があれば睡眠判定機など簡単に作れるだろうに……。しかし、そもそもそのような便利な道具があれば判定機も不要だと気付いた次第である。閑話休題。

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