「平田の装置」の概念図。(画像提供:平田聡)(写真クリックで拡大)

 実験ブースの外側に置かれた食べ物を引き寄せて食べるためには、ふたりのチンパンジーがロープの両側を持って同時に引き寄せなければならないセッティングを作ってやる。ひとりだけでひっぱっても、ロープは食べ物を置いた台からするりと外れてしまって目的は果たせない。あくまでふたりの協調作業が必要だ。

「13日くらいかけて、ふたりのチンパンジーがロープの両端を持って、同時に引っ張る協力行動ができるようになったんですが、アイコンタクトなどで合図して、いっせいの、というのではないんです。それを果たして協力というかどうか定義の問題です。でも少なくとも、人間みたいに、本当に相手と息を合わせるために積極的に努力をしたり、あるいは得られた成果をふたりで分け合ったりということはしないんです」

 平田の装置は、ほかの霊長類、ほかの動物でも応用できる。ボノボはチンパンジーよりも高い割合で成功する。ゾウは、息を合わせて引っ張って課題をクリアした。カラスも成功するが、仕組みを理解しているようには見えない。等々、社会的知性の方向性は生き物によって様々であるらしい。

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つづく

平田聡(ひらた さとし)

1973年、広島県生まれ。京都大学野生動物研究センター教授。博士(理学)。1996年、京都大学理学部卒業、2001年、京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員、林原生物化学研究所類人猿研究センター、京都大学霊長類研究所(特定准教授)をへて、2013年9月より現職。日本霊長類学会高島賞、日本心理学会国際賞、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞を受賞。専門は霊長類学、比較認知科学、ヒトとチンパンジーの比較を通して社会的知性の起源を研究しつつ、飼育下におかれたチンパンジーやボノボの福祉を向上させる活動も行っている。近著は『仲間とかかわる心の進化――チンパンジーの社会的知性』 (岩波科学ライブラリー)

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

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