はたして、「あざむく」チンパンジーは、どれほどの水準であざむいているのか。例えば、相手が心を持つと理解した上で(いわゆる「心の理論」を持った上で)しているのか今も不明だが、相手の行動をみて自分の行動を柔軟に調整する高度な社会的知性の発露といえる。

「野生のフィールド、ギニアのボッソウにはじめて行ったのは1996年で、修士1年生のとき。2回目は、98年。最後に行ったのは1999年から2000年に変わるときの12月から1月にかけて。2001年も行こうとしたんですけど、ボッソウから国境が近いリベリアで内戦があって、その影響で行けなくて。2000年にアイがアユムを産んで、それから他のふたりのチンパンジーも子どもを産んで、3組の母子ができたので母子の行動の研究に比較的時間を費やすようになりました。01年に博士号を取って02年には就職をしたので、そこからフィールドには出ていません。とはいえ、飼育下だけを見てればいいとはまったく思っていないんですが」

 平田さんが就職したのは、岡山県にあった林原という企業の類人猿研究所だ。一民間企業ながらメセナ活動に熱心で、本業とは直接関係のない科学研究を推進する林原自然科学博物館(岡山市)や、林原類人猿研究センター(玉野市)を持っていた。類人猿研究センターは、2001年に開設され(まさに平田さんの卒業を待っていたかのようだ)、動物行動や比較認知、社会生態、発達、獣医学、生理学などの学術研究と、動物福祉、環境エンリッチメント、環境教育など応用実践を視野に置いた。医学感染実験ではなく、最初から現代的なチンパンジーの研究所として計画されていた。

 この連載で紹介した平田さんの研究は、この林原類人猿研究センター時代のものが中心になっている。「平田の装置」という、霊長類研究の世界で有名な実験装置もここで培われた。

 それを簡単に言うなら、チンパンジーの協調行動を調べるための巧妙な仕掛けだ。

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