サンクチュアリのチンパンジー・タワー。(写真クリックで拡大)

 95年、96年のあたりに、霊長類研究所でなにやら新しい動きがあったというのは事実で、施設の外からでもはっきり見える部分としては、チンパンジー・タワーなるものが出来た。一見、無骨な金属の15メートルタワーなのだが、チンパンジーにしてみれば、運動場の真ん中に大きな木が生えたようなものだ。本来、森の木に上り、垂直方向の空間移動をするのが当たり前の彼らにとって、こういった工夫は、自分たちに合った生活空間を取り戻すことであり、チンパンジー飼育の一大革命となった。21世紀の今、多くの日本の動物園が似たタワーを建てている。もちろん、サンクチュアリにもある。

 研究面でも、霊長類研究所は、世界的な霊長類研究の中心地になっており、チンパンジー研究では間違いなくトップランナーとしての地位を盤石にしていた。チンパンジーの知性の研究で有名なアイとアユムの母子については、聞いたことがある人が多いと思う。「アイ」や「アイとアユム」が登場する本は、松沢哲郎教授らによって一般書から専門書までたくさん書かれている。

 また、「ナッツ割り」の道具使用が発見されたギニアのボッソウも、霊長類研究所のフィールドだ。つまり、実験室での知性・心理研究が行われつつも、野生のフィールドを持っているのである。そんな研究所でチンパンジーに出会い、不思議! と思ってしまったら、その「不思議」を解明する道に進むしかなかったのであろうと推察する。

「霊長類研究所で、一番最初にやったのは、宝探しゲームですね。運動場で何か食べ物を隠して、その隠した食べ物をめぐってチンパンジーがどんな駆け引きをするのかを見ます。ふたりのチンパンジーがいて、ひとりがその食べ物の隠し場所を知っている。知っている方は最初は食べ物の場所に直行するけれど、そのうちにもうひとりが先回りをはじめて横取りしたりする。それで、知っている方が最初、違う方向に行って相手をあざむいてから、本当に食べ物があるところに向かう、とか、あざむきの行動を取るようになる……」

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