西アフリカのギニアという国は、東西にやたらと長い。

 京都大学霊長類研究所の研究拠点ボッソウ村にたどり着くには、首都コナクリから四輪駆動車で2泊3日を要する。チンパンジーたちがアブラヤシの種を割って食べるために道具を使う「ナッツ割り」の行動で有名なフィールドだ。

 2010年に、ぼくは霊長類研究所の松沢哲郎教授の許可を得て、現地を訪れたことがある。地元の研究助手の後をついて森に入ると、比較的すぐにチンパンジーに出会えた。それほど大きな森ではないし、なによりチンパンジーの移動の痕跡を読む助手が優秀なのである。

ボッソウの森とチンパンジー。(撮影:川端裕人)(写真クリックで拡大)

 野生のチンパンジーとの出会いは本当に印象深く、彼らの力強さ、感情の豊かさ(とぼくには感じられるもの)、行動のおもしろさなど、語り始めたらきりがないのだが、その中でも、自分の目でナッツ割りを見られたのは、強く印象に残っている。

 まず最初に驚いたのは、少し離れたところでもはっきりと分かるカーンという打撃音。

 想像してみてほしい、森を歩いていて、カーンカーンと音がする。誰かが意図を持って、何かをしていると示唆する物音だ。どこかの狩猟民が近くにいると思う方が自然だ。しかし、実際に近づくと、チンパンジーが台石の上に木の実を置いて、さらに別の石でたたくという手の込んだやり方でナッツ割りをしているのである。「人間がいる」という感覚から「チンパンジーがいる」という感覚に切り替わる際に「おおっ」という驚きがあった。ナッツ割りについて事前知識がなかったら、さらに強い衝撃を受けただろう。

 前置きが長くなった。野生のチンパンジーのことは、考えてみるとどこにも書いたことはなかったので、興がのるとどんどん長くなりそうで自粛。

 さて、熊本県宇城市にある京都大学野生動物研究センター・熊本サンクチュアリには、59にんのチンパンジーと6にんのボノボが暮らしている。

 常駐して研究をしている平田聡教授と一緒に、チンパンジーのランチタイムにお邪魔し、食事と一緒に繰り広げられるちょっとした研究的瞬間について書いてきた。アイトラッキングという人間では当たり前でも、チンパンジーでは世界で2カ所でしかできない手法を使ったチンパンジーの発達心理、社会的知性についての研究に少しふれることができた。

 そして、その次に、見せていただいたのが、なんと、「ナッツ割り」だったのだ!

本誌2014年8月号でもチンパンジーの特集「ゴンベ 森の家族たち」を掲載しています。Webでの紹介記事はこちら。チンパンジーの「家族アルバム(フォトギャラリー)」はこちらです。ぜひあわせてご覧ください。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る