第2回 ヒト科の心はどのように発達してきたのか

 発達というのは、同じ種、つまり人間なり、チンパンジーなりが、生まれてからどういう能力や形質や行動を伸ばしていくか、という意味だ。けれど、それを人間とチンパンジーで並べてみれば、もっと視野が広くなる。この何千万年かの間に起きた「ヒト科の動物」、つまり、人間や類人猿の進化(系統発生、系統の発生と言い換えてもよい)の道筋で、どのような違いが生じてきたのか分かるわけだ。

 具体的にはどんな実験をしているのか。

 平田さんは、ブースの中でマウスを操作して、さきほどの動画の上にチンパンジーが見ていた場所を特定するマークを表示した。それによれば、チンパンジーの視線は、ふたりとも、オレンジジュースが入っているペットボトルと、注がれるコップの間を往来するばかりだった。その動作をしている人間の女性の顔を見ることは、一切なかった。

アイトラッカーによるチンパンジーの視線の例。赤丸が視点を示している。(画像提供:平田聡)(写真クリックで拡大)

「典型的なチンパンジーの目の動きですね。人間だと、注いでいる人の顔も見るんですが、チンパンジーは、コップやペットボトルばかり見てます」

 これだけなら、「チンパンジーは食べ物につられやすい」という仮説もアリなのだが、人間がただコップを積み上げるような食べ物が出てこないセッティングでもやはり顔を見なかったり、人間のかわりにチンパンジーが道具を使ってハチミツ舐めをする動画でも道具の方を見ていたり、しかし、チンパンジーだけや人間だけの画像を見せると顔を見たり、とチンパンジーの外界への関心の持ち方、つまり社会性のあり方に示唆を与える結果が得られる。平田さんのテーマである「社会的知性」に関係してくるのも分かるだろう。