第2回 ヒト科の心はどのように発達してきたのか

 男性チンパンジーの昼食タイムが終わると、次は女性の登場だ。最初に出てきたのは、ツバキとナツキの母子。女性は男性ほど気性が荒いわけではないので、平田さんもブースの中に入って直接食事を与えた。ぼくたち取材側は、ポリカーボネイトの透明壁で仕切られた外で待機。

「動物園なんかですと、チンパンジーに触ったことがない飼育員がいるんですけど、ここでは信頼関係をつくって中に入ります。慣れてくると危険がある時は分かるので。オスでも、興奮しない状況で、危険がないと判断すれば中に入りますよ。動物園の方が研修に来て、驚かれることもあります」という。

 昨今、動物園の飼育員は、仕事のローテーションで長い期間チンパンジー担当でいられないことが多い。安全重視のためにチンパンジーと同室するのは推奨されなくなったようだ。

 さて、ブースの中に一緒に入って何をするかというと……果物を与えつつ、パソコンのモニタを、ナツキの前に据えた。人間の女性がペットボトルのオレンジジュースをコップに注ぐ動画が再生され、ナツキはそれに見入った。ナツキの次には、母親のツバキも同じことをした。

ポリカーボネイトの透明壁の外側から撮影。(写真クリックで拡大)

「アイトラッカーと言いまして、赤外線のカメラで目の動きを追ってます。画面のどこを見ているか分かるんです。これを使った心理的な研究は、人間の発達心理学とかではかなり盛んに行われています。例えば人間の子どもに使ってもらって、心の発達を調べたりするわけですが、同じ装置でチンパンジーのデータを取って比べると、発達じゃなくて系統発生がわかるっていうような発想です」

 人間の発達心理学の実験をチンパンジーにも行ってみる。それによって、発達ではなく、「心の系統発生」が分かる。