第3回 睡眠時間の長さを決めるのは遺伝か環境か

 今回の話をまとめてみる。睡眠時間が遺伝的影響を受けているという知見は、分子生物学や遺伝学の方面からアプローチを続けている研究者に強力な援軍となった。ノストロモ号のデッキに降り立つシガニー・ウィーバーか、ネブカドネザル号のキアヌ・リーブスか、というくらいの心強さである。今後は影響力を行使している遺伝子の特定やその機能解析に精力が注がれることになるだろう。いや、すでにこの瞬間にもブレイクスルーになるような大発見がなされているかもしれない。『ベガーズ・イン・スペイン』に登場する無眠人/スリープレスの原因遺伝子も是非見つかってほしいものである(多因子遺伝では難しかろうが……)。

 また、双生児研究、遺伝研究では表現型を正確に把握することがとても重要であることもお分かりいただけたと思う。精神現象などとは異なり、睡眠時間は表現型が明瞭のように思われるかもしれないが、このコラムでも何度か触れたように睡眠時間は恣意的に操作可能であり、研究精度を落とす“ノイズ”になっている。もし遺伝的要因を強く反映しているであろう個人の必要睡眠量を表現型として用いれば、それに関連する遺伝子群を探索するパワーも一気に高まることが期待できる。ただし、何度も書くように必要睡眠量の測定はとても大変な作業なのである。

 次回は引き続き、我々がチャレンジした必要睡眠量の測定研究とその個人差を生み出すメカニズムについて考えてみたい。

つづく

『8時間睡眠のウソ。
日本人の眠り、8つの新常識』

著者:三島和夫、川端裕人

睡眠の都市伝説を打ち破り、大きな反響を呼んだ三島和夫先生の著書。日々のパフォーマンスを向上させたい人はもちろん、子育てから高齢者の認知症のケアまでを網羅した睡眠本の決定版。睡眠に悩むもそうでない方も、本書を読んでぜひ理想の睡眠を手に入れてください。
アマゾンでの購入はこちら

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。