第3回 睡眠時間の長さを決めるのは遺伝か環境か

 成人の睡眠時間の遺伝率は0.30~0.50と推定されている。特筆すべきは乳幼児の睡眠時間の遺伝率が0.6~0.7と高いことだ。遺伝率の概念は複雑だが端的に言えば「ある表現型がどの程度遺伝によって決定されるか」を示す尺度である。例えば遺伝率0.5とはその集団における睡眠時間の分散(ばらつき、個人差)の50%が遺伝的要因で説明できることを意味している。もっと分かりにくい? 何はともあれここでは、遺伝率が大きいほど個人差に遺伝が深く関係していることを示すと承知いただければ結構である。

 ちなみに、これまでに報告されているさまざまな心身機能の遺伝率の例として、記憶力(0.32)、知覚速度(0.46)、推理力(0.48)、体重(0.80)、知能(0.80)、身長(0.86)などがある。もちろん研究の対象集団(年齢、人種など)によっても異なるので、あくまでも参照値としてご覧いただきたい。

 読者の方々はどのような印象をうけるであろうか。これらの数値を聞いて「なるほど!」と膝を叩いて納得する人はほとんどいないだろう。推理力が0.48とはなんぞや? シャーロックホームズの子供もやはり名探偵になれるのか!? やめておいた方が無難なのか!?

 それでも、知能(0.80)や身長(0.86)の遺伝率は遺伝子のチカラが強いのだろうなぁ、と納得するに十分な数値に見える。実際、「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」「男子の身長=(父親の身長+母親の身長+13)÷2+2」などの言い伝え(?)があるように、身長や知能などは世間一般でも “親から受け継ぐ”表現型として認知されている。それらに比べれば睡眠時間の遺伝率は低めだが、睡眠時間の長短に厳然として遺伝的影響が関与していることはご納得いただけると思う。