第3回 睡眠時間の長さを決めるのは遺伝か環境か

 エビと衣の2つ合わせてエビ天なのであってどちらが大きい小さいと言い争っても仕方が無い。事実を受け止めるしかない。しかし仮にエビが極めて小さい、ほとんど衣だけであったと判明すればこれは悲劇である。その場合、当然ながら睡眠時間の長短に寄与する遺伝子が見つかる可能性は極めて低く、見つかったとしてもその影響度は小さいに違いない。研究者は睡眠時間の調節メカニズムを分子レベルで解明する大きなアプローチ法を失うことになる。

 不安を抱きつつも多くの睡眠研究者が “大きなエビ”を求めて調査を進めた。実際のところ、天ぷらを外から見てエビの大きさを知ることは可能なのか? これは難しいに決まっている。読者の皆さんも頭からかじった一口目に身が入っていなかったという苦々しい経験をお持ちだと思う。エビ天を解体せずにエビと衣の割合を算出するには相当の準備とテクニックを要するのだ。

 そもそも睡眠時間に限らず、ある生体現象が遺伝か環境のどちらかの影響を100%受けるなどということは一般的にない。遺伝的影響も単一の遺伝子が担うのではなく、複数の(時には多数の)遺伝子がさまざまな影響度を発揮している場合が多い。これを多因子遺伝と呼ぶ。笑い話のように聞こえるかもしれないが“台風の日に外で転んで骨折をした”などというアクシデントですら平衡感覚、筋力、骨密度、そんな日に外出する無謀な性格などさまざまな遺伝的影響を受けているといわれるほどである。

 睡眠時間もまた遺伝と環境の相互作用(バランス)により決定されている。バランスと言っても遺伝と環境が同等に作用しているわけではなく片方の影響がより強いのが普通であり、その割合は疾患や生体機能によって大きく異なる(図)。睡眠時間というシンプルな情報からその割合を試算するというのであるから全く雲をつかむような話に聞こえるかもしれない。

睡眠はどのあたりかな?(イラスト:三島由美子)(画像クリックで拡大)