第3回 睡眠時間の長さを決めるのは遺伝か環境か

 環境の影響によって睡眠時間が大きく増減するのは事実だろうが、それはあくまでも見かけ上の変動である。しかも一過性には激しく見える影響も1週間、1カ月と平均すれば睡眠時間の個人差をすべて説明できるほど大きいものでないことも分かってきた。やはり個人差の主役は必要睡眠量らしい! 必要睡眠量の個人差に関連する遺伝子を探し出せれば、睡眠時間を決定するメカニズムを分子レベル、たんぱく質レベルで解明する夢にも現実味が出てくる。その先は睡眠時間調整薬の開発へと夢は続く。睡眠障害はもちろんのこと、麻酔や冬眠、アンチエイジングなどユニークな応用法が見いだされるかもしれない。睡眠時間の遺伝研究がもたらすビッグな夢に睡眠研究者は賭けたのである。

 問題はどうすれば必要睡眠量に対する遺伝的影響を知ることができるかである。第2階回目でも少し触れたが、個人の必要睡眠量を知るには特殊施設を用いた精密な実験が必要である。とても手間がかかる作業で多数の被験者を要する遺伝研究にそのまま利用することはできない。そこで次善の策として、普段の生活で記録した睡眠時間に及ぼす「遺伝」と「環境」の影響の度合いを調査することから着手したのである。睡眠時間に相当程度の遺伝的影響が確認できれば、その多くを担うのは1階部分の必要睡眠量と考えてまず間違いないからだ。結果的に遺伝研究者の賭けは吉と出た。

 当初、研究の見通しについては悲観論が強かった。遺伝部分が天ぷらのエビだとすれば、環境部分は衣である。時々エビがひどく小さいのにやたらと見かけが大きいエビ天に遭遇することがあるが、多くの研究者にとって睡眠時間のイメージはこのちょっと残念なエビ天であった。エビは尻尾くらいがせいぜい、たっぷり天ぷら粉をまぶして揚げたのが睡眠エビ天というわけだ。