第3回 睡眠時間の長さを決めるのは遺伝か環境か
前回、私たちの普段の生活での睡眠時間(以後、単に睡眠時間と呼ぶ)に長短が生じる主たる要因として3つ挙げた。第1は体質的に決められた必要睡眠量、第2は睡眠ニーズに関わる生活習慣、第3は眠気に打ち勝つ覚醒力、である。3つの要因のそれぞれに個人差があることによって睡眠時間に大きなバリエーションが生じてしまうのだ。
今回のテーマは“睡眠時間は遺伝する”である。睡眠時間の個人差は主に環境の相違によって生じると考えられてきた。しかし最近の遺伝研究によって実は従来の予想以上に遺伝の影響を受けていることが明らかになってきた。これは睡眠時間の調節メカニズムを探求する研究者にとって大きな朗報である、というお話しである。
今回の話題に入る前に、睡眠時間と必要睡眠量という紛らわしい名称の違いについて説明しておきたい。必要睡眠量とは精神活動、体温調節、循環、代謝など基本的な生命活動を日々営むために最低限必要な休息としての睡眠時間のことである。遺伝の影響を受けるのはこの必要睡眠量であると考えられている。必要睡眠量は発達や加齢により緩やかに変化はするものの、恣意的に短期間で変化させることはできない。
しかし現実には私たちの睡眠時間は日々大きく変動する。例えばスポーツで汗を流せば眠りは深く長くなり、日がなゴロゴロして過ごした夜は浅く短くなる。運動、食事、入浴、飲酒などの生活習慣(体内環境)や、気温、湿度、日照時間などの気象条件(外部環境)が睡眠時間に大きく影響することは数多くの研究で確かめられている。必要睡眠量を睡眠時間の1階部分とすれば、環境による変動は2階部分に相当する(時には1階にめり込むこともある)。
以前は睡眠時間の個人差の大部分は2階部分で説明できると考えられていた。1階の天井がとても低く、2階が高く吹き抜けになっている変則型の住宅である。しかし、睡眠時間の研究者が着目したのは主に1階部分であった。必要睡眠量はどのように決定されるのか、そのメカニズムに関心を持ったのである。これには理由がある。

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