第2回 実はゾウの楽園だった日本列島
「トウヨウゾウがいなくなって、その後、今度34万年前にかの有名なナウマンゾウが入ってきます。このナウマンゾウは割と頑張って、今から2万年ぐらい前までは何とか生きのびます。トウヨウゾウもナウマンゾウも、朝鮮半島か東シナ海がつながった時に来ているんですが、実はサハリンから北海道に入ってきたルートがあって、そこを通ってきたのがマンモスですね。マンモスも最後の氷期が終わって急激にあったかくなると、もう、とても日本国内で生きてられないので絶滅してしまうか、サハリンを通ってまたもとへ戻っていったか、とにかく日本から消えます。これで、一応日本で知られているゾウの化石ほぼ全体の話になります」
駆け足だったけれど、いかがだろうか。
今、日本で発掘されているゾウだけで、これだけの話になる。個別の「ご当地ゾウ」の話題には、ニュースになるたびに触れていても、このように時系列、あるいは空間的な分布を考えてみたことはなかったので新鮮だった。
「実はそんなにたくさんの種類がワーッといた時代っていうのはなくて、同時には2種類くらいが最大です。でも、今日本には野生のゾウがいないのに、これだけのゾウの歴史が日本列島の中にあると。そういう意味で、ちょっと大げさなタイトルですけど、今回の特別展でも『ゾウの楽園』というタイトルのコーナーを作ったんです」
なお、一連のゾウの歴史の中で、ぼくが惹かれるのは60万年ほどまえのステゴドン、トウヨウゾウがいた時代だ。
「ゾウというのは、ケナガマンモスのように寒冷気候に適応していたものもいるんですが、基本はアフリカ起源で、どちらかというと熱帯、亜熱帯系の動物なんです。トウヨウゾウは割とあったかいところのやつらしくて、暖温帯か亜熱帯ぐらいのやつかな。中国にはたくさん化石記録があるんですけど、割と南のほうに多いやつなんですね。トウヨウゾウが来た頃というのは、間氷期の中でも特に暖かくて、その時、サイも入ってきているんですよ」
日本列島にサイ! それも、トウヨウゾウと同じ時期に!
実はぼくはこの点に強く反応してしまう。ゾウとサイが同時にいる景観は、特別に感じられてならないのだ。今のアフリカの巨大動物相を思わせるから、というのが理由かもしれない。
国立科学博物館特別展「太古の哺乳類展」開催
2014年7月12日(土)から10月5日(日)まで、東京上野の国立科学博物館で「太古の哺乳類展」が開催されます。開館時間、休館日ほか、詳細は公式ホームページをご覧ください。
つづく
冨田幸光(とみだ ゆきみつ)
1950年、愛知県生まれ。国立科学博物館地学研究部部長。博士(Ph.D)。1973年、横浜国立大学教育学部卒業後、アリゾナ大学大学院で博士号を取得し、1981年に国立科学博物館に。2014年より現職。主に新第三紀の小型哺乳類(ウサギ類、げっ歯類など)や、古第三紀の原始的な哺乳類の系統進化や古生物地理などを研究している。『新版 絶滅哺乳類図鑑』(丸善)、『DVD付 新版 恐竜』(小学館の図鑑 NEO)
などの著書がある。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider