第2回 隣の眠りは長く見える―睡眠時間の個人差について

 そこで第2の要因、生活習慣が重要になる。ライフスタイルによる睡眠ニーズを考えることなしに睡眠時間の長短は語れない。アスリートが現役を引退するといきなり睡眠時間が短くなるという。ごく普通のサラリーマンでさえ退職して家でゴロゴロするようになると、眠りが浅く短くなることが少なくない。消費エネルギー量と睡眠時間との間に関連があるからだ。睡眠の最大の役割は休養である。必要な時に必要な人にやってくるのだ。

 実生活で睡眠時間の長短が生じる第3の要因は眠気に打ち勝つ力に大きな個人差があることだ。例えば、メカニズムは未だ不明だが、夜型の人は睡眠不足に強いことが分かっている。夜更かしでも朝の出勤・登校時間は変わらないので夜型の人は概して睡眠不足だ。その分、翌日には早寝をしても良さそうなものだが、昼に感じていた眠気は夜になると消えてしまい、むしろ目が冴えてきて深夜にガサゴソ活動を開始するのだ。睡眠不足に強い夜型を放っておいて自然に早寝になることはない。一方で朝型の人にも弱みがある。睡眠リズムは規則正しいものの睡眠不足には弱く、夜勤は苦手とされている。ちなみに、メディア関係者で「朝型です!」と力強く答えた人に私は2、3名しか出会ったことはない。圧倒的多数は「夜行性」という印象。夜型にクリエイティブな人が多いのか、単なる生き残り効果か、これもまた理由は不明である。

 睡眠時間の個人差に関わる要因はさまざまあるが、上記の3点は特に影響が大きい。実生活での快眠スキルに役立つ情報も多く含まれているので、もう少し詳しく解説してみたい。そこで次回は、第1の要因、体質で決定されている必要睡眠量を取り上げる。

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。