第3回 野心家だった父のコンプレックス

 心理的には、家族や一緒に登山するパートナーに愛される人でありたいと思っている。しかし、やろうと思ったことは絶対に成功してやるという野心もある。そのために「愛される人でありたい」という自分の気持ちを振り切ってしまおうとするところも出てくるわけです。

 たとえば、仲間が自分より先に山頂を目指すチャンスを得たとする。父は、その仲間を妬むわけではありませんが、それが自分だったらどんなにいいかと考えてしまう。そこに野心家である父の強い葛藤があるのです。

 ただ、父は地に足がついているというか、気取ったところも、おごったところもない人柄。誰に対しても平等に接することのできた人でした。それが父の魅力だと思います。

――これも映画に出てくるエピソードですが、エドモンドさんの父親がとても厳格な人だったそうですね。

 祖父は、第一次大戦のガリポリの戦いで最前線に立った経験を持つ人でした。オーストラリア軍とニュージーランド軍が参戦して、多大な損失を被った戦いです。

 祖父は幸いにも生還したわけですが、そういう時代を生き抜いた世代ですからね。子どもとはある程度の距離を持ち、厳しくしつけるのが父親の役割だと思っていたでしょう。父は、多分にその影響を受けていたと思います。父自身も第二次大戦中は、ニュージーランド空軍に従軍していましたし。