次の朝、

 一晩も煮込めば、普通はもっと美味しいものができるというのに……。

「ああ、これがラーメンスープだったら……、チャーシューだったら……、ポトフだったら……、シチューだったら」

 私は寸胴鍋の前に佇みながら、ため息がこぼれていた。

 まだ眠たそうな顔で鍋の様子を見に来たトーニャも、

「これがスープだったらね~」と呟いている。

 どうして寸胴鍋という物は、見ただけで、勝手に美味しそうなものを想像してしまうのだろうか。

 けれど蓋を開けると、鍋の具は、森から取ってきた枝に、葉っぱに、罠のワイヤーに、ボロ雑巾、ボロ靴下、ボロ軍手。

 鼻をツンと刺激し、見ると「うえっ」とえずいてしまう、「なんじゃこりゃ~」の、おどろおどろしい液体なのである。

 このギャップは、私の脳を、未だかつてないような混乱と苦しみの渦に陥れた。

 いろいろと美味しいもの想像してみたものの、現実はこの鍋が胃を満たしてくれるワケもなく、

「気持ち、切り替え!」

 と、キッチンに行くと、トーニャも私も、アメリカの定番食であるコーンフレークにロングライフミルクをそそいで、バリボリと食べた。

 そこに昨夜遅くに家に帰って行ったスティーブがスノーモービルに乗ってやって来た。

 ロッジに入ってくるなり、

「昨夜じゅう、この周辺の犬たちが吠えていたのを聞いたかい?」と、言う。

 確かに私も、寝ながら吠え声を聞いていたような気がする。

「オオカミの群れは、まだこの近くにいるに違いないよ」

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