第1回 睡りの常識のウソを見抜く

 ともあれ、気を取り直して書棚をじっくり眺めてみる。若い頃専門書でお世話になった高名な先達から、寡聞にして存じ上げない方々まで、なんと多くの人々が執筆していることか。全部買うわけにもいかないので、5時間ほど立ち読みしてみる。良書は購入もした。快眠指南書14、5冊でざっと概算するに、書いてあることの9割はそれ単体で見ると科学的に正しい印象。ただ実用本としてみると点数は辛くなり正答率7割くらいとなる。理論と実際は異なることも多い。基礎研究と臨床を混同した記載も目につく。よく知られた「朝の光で睡眠リズムをリセット!」などはその代表で、一般論としては正しくても不眠気味の中高年では逆効果。むしろ夕方過ぎの光が良い。「眠りを促す○○を食べて快眠!」、でも効果を得るには3トン必要なんて事例もある。

ウソ?ホント?(イラスト:三島由美子)(画像クリックで拡大)

 細かい解説は別の機会に譲るとして、科学的誤謬から派生した睡眠の都市伝説が流布する現状は専門家としてちょっと歯がゆい。そこでこのコラムでは睡眠の常識と非常識を科学の視点から解説し、日々の快眠に役立つ情報をお伝えしたい。

 大事なのは睡眠の都市伝説を叩くのではなく、むしろじっくり紐解くこと。なんといっても都市伝説には説得力、突破力がある。その巧妙なレトリックを理解することは睡眠学に限らず科学的批判力を磨くことになるからだ。眉唾商品を購入せずに済むだけの眼力も養えるのではないだろうか。

つづく

『朝型勤務がダメな理由』
三島和夫著

50万ページビュー以上を記録した「朝型勤務がダメな理由」をはじめ、大人気の本連載がついに書籍化! こんどこそ本気で睡眠を改善したい方。また、睡眠に悩んでいなくても自分のパフォーマンスを向上させたい方は、確かな知識をひもとく本書でぜひ理想の睡眠と充実した時間を手に入れてください。『8時間睡眠のウソ。』を深化させた、著者の決定版!
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三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。