第95話 こうして、オオカミ罠鍋の夜は更けていく。

 以前、オオカミの毛皮を触ったことがあるのだけれど、ほとんど犬の毛と変わらないのである。

 言ってみれば、ハイイロオオカミの毛も、ハスキー犬の毛も、私には違いが分からない。

 もちろん、分かる人には分かるだろうけれど、素人目には、どれもイヌ科の毛だ。

 だとしたら、愛犬家であるトーニャにとって、オオカミを捕るという行為に抵抗感はないのだろうか?

 けれど、これまたトーニャはあっさりと応えた。

「無いわよ」

 あまりにも即答過ぎて、私はコケそうになるくらいだった。

「だってね、犬は人間のパートナーだけれど、オオカミは、森の現金だもの」

 ん~、ここまで割り切っていると、かえって気持ちがイイ。

 そして、トーニャが続けて言う。

「森の中で、オオカミたちも必死に生きている。私たちも必死に生きているのよ」

 そう聞くと、私の心も、少しは整理がついてきた。

 お互いこの森のなかで必死に生きているもの同士、これは挑戦のようなものなのかもしれない。

 オオカミは嗅覚が鋭く、神経質でほとんど人前に姿を現すことがない。

 そんなオオカミたちと、人間との知恵比べだ。

 はてさて、どうなることか?

 全ては明日。さて、寝よう。

 私たちのオオカミ罠鍋の夜は、そうして更けていった。

つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/