第76回 ツノゼミの名前がわかるまで、研究者たちは熱く語り合う

ヘミカルディアクス・サウンデルスィ(カメムシ目:ツノゼミ科:Smiliinae)のオス
A treehopper, Hemicardiacus saundersi, male
体長:約6 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)

「こんな2色のアンティアンセを見たことがあるのか?」
「ヘミカルディアクス・サウンデルスィは、どうだ?」
「この本のヘミカルディアクスのページを確認してみるのがいいぞ」

まるで暗号で会話しているみたいだ。
議論は、よく似たほかのツノゼミ写真も加わって、さらに沸騰する。

「これら2種類の写真は同じ種だろうね」
「Kenji、この2種がオスかメスかを教えてくれないか? 同種かどうか頭がこんがらがった」
「交尾器の形が違うので、それぞれ別の種だと思います」(ぼく)

 こんなふうに1カ月でツノゼミチーム5人+ぼくの間で102のメールのやり取りがあり、この2種に関しては、「ヘミカルディアクス・サウンデルスィと、ヘミカルディアクス・サウンデルスィに近い種であろう」という結論にたどり着いた。

 驚いたことに、ヘミカルディアクス・サウンデルスィはこれまで世界に一つだけ、オスの標本しかなかったそうだ。ぼくがオスとメスの2匹を採集したので、全部で標本が3つとなった。

 そんなわけで、みなさんには単なる呪文にしか聞こえないかもしれませんが、写真のキャプションについている昆虫の名前には、研究者たちによるこんな白熱した舞台裏があったりするということを、心の隅に留めておいていただけると嬉しいです。

これまでに出会った中で、ぼくにとって一番印象的なツノゼミ。この色がたまらない。撮影中、心臓バクバクになった。ツノゼミのSmilinaeという仲間に詳しいMatthew Wallace博士によると、新種の可能性が高いようだ。
体長:約6 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)