第1回 誘拐の場面に遭遇して

――つまり、合意のない現代の誘拐結婚は、キルギスの伝統ではないと。

 そうです。誘拐する男性も、誘拐される女性も、それがキルギスの伝統のように思い込んでいる人が多い。だから、女性も説得されて結婚を受け入れてしまうんです。

 そうして幸福な家庭生活を送る女性がいないではありません。しかし、誘拐結婚で一人の女性の人生が人為的に、しかも強引に変えられてしまうのですから、これは明らかに人権侵害です。

――両者の合意なしに誘拐するようになったのは、何が理由なのでしょう。

 専門家にも聞きましたが、それがよくわからないそうです。ただ、時期的に暴力的な誘拐結婚が増えたのが1960年代か70年代あたりのようですから、背景にモータリゼーションがあると思います。

 キルギスで自動車が普及しはじめてから、何人かの集団で女性を車に押し込め、連れ去るという手段が横行していったのでしょう。

 ある古老は、そのような暴力的な誘拐結婚は「最近の流行だ」と言っていました。

――誘拐結婚の取材秘話をもう少しうかがうことにしましょう。

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(つづく)

林典子(はやし のりこ)

1983年生まれ。大学在学中に、西アフリカ・ガンビアの地元新聞社、ザ・ポイント紙で写真を撮りはじめる。「ニュースにならない人々の物語」を国内外で取材。ナショナル ジオグラフィック日本版で、2012年9月号「失われたロマの町」、2013年7月号「キルギス 誘拐婚の現実」を発表。キルギスの誘拐結婚の写真は世界的に広く注目され、フランスの報道写真祭の特集部門で最高賞、全米報道写真家協会フォトジャーナリズム大賞の現代社会問題組写真部門で1位を受賞。その他、米ワシントン・ポスト紙、独デア・シュピーゲル誌、仏ル・モンド紙、デイズ・ジャパン誌、米ニューズウィーク、マリ・クレール誌(英国版、ロシア版)など、数々のメディアで作品を発表。著書に「フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳 ―― いま、この世界の片隅で」(岩波新書)。


高橋盛男(たかはし もりお)

1957年、新潟県生まれ。フリーランスライター。自動車専門誌の編集を手がけたのちフリーライターに。JR東日本新幹線車内誌「トランヴェール」、プレジデント社「プレジデント」「プレジデントファミリー」などに執筆。