ホームステッドの共用キッチン兼リビングであるロッジのなかには、10人以上は座れるような、木製の大テーブルが置かれていました。
そして、そのテーブルのすぐ脇の壁に、額に入れられた1枚の小さな写真が、さりげなく飾られていました。
それは正確には、写真のプリントではなく、ポストカードでした。
長い年月を経たせいか、ずいぶんと色あせていましたが、ぼくはその写真を一目見たときから、すぐに興味を持ちました。
なぜならそこには、ぼくでも名前を知っている、ある日本人の姿が写っていたからです。
その人物は、見渡す限り木が一本も生えていないような、岩と雪の荒涼とした大地に立ち、膝ぐらいしかない背丈のアデリーペンギンの群れに囲まれていました。
まるで観光客のようにカメラを首から提げ、厚手のパーカーに身を包み、無精髭をはやした口元からは、真っ白い歯をのぞかせながら、屈託のない笑顔をこちらに向けていたのです。
そこでぼくは、ある日、ロッジの近くでウィルとすれ違ったときに、ついにその写真について聞いてみました。
「あの壁の写真。ナオミ・ウエムラですよね?」