バハマの海で世界最大の魚、ジンベエザメに遭遇。ナマズの大親分といった感じのひょうきん顔。(以下写真:渡辺佑基)

 世界最速のスイマーであるバショウカジキは時速100キロ以上で弾丸のように海を飛ばす。マグロも負けず劣らず、時速80キロでびゅんびゅん泳ぐ。シャチは時速70キロで前進するし、ペンギンは時速60キロですいすいと海を渡る――。

 以上の話は子ども向けの図鑑などでしばしば見られる、海の動物たちの「真実」である。流線形の体とアスリートのような筋肉をしたカジキやマグロやシャチは、驚くほどうまく水中生活に適応しており、まるで高速道路をはしる車のようなスピードで大海原をびゅんびゅん泳ぐとされる。

 ところがどっこい、である。海洋生物学者である私は、実際にバショウカジキの遊泳スピードを海で計測した科学論文を調べてみたところ、平均スピードは時速2キロと知った。いや書き間違えではない。20キロでも200キロでもなく、2キロ。ちょうどお年寄りの散歩くらいのスピードで「世界最速」のバショウカジキは泳ぐ。

 ちなみにマグロは時速7キロ、シャチは時速5キロ、ペンギンは種類にもよるが、おしなべて時速6~8キロと報告されている。私は自分自身でも、高速遊泳(と思われている)のサメやペンギンやアザラシなどの遊泳スピードをあまた測定してきたけれど、平均的な遊泳スピードは例外なく時速8キロ以下である。

 もちろん逃げるエサを追いかける折など、瞬間的にならそれ以上の速度が出せるだろう。瞬間的な最高速度は測るのが難しいため、データが揃っていないが(その動物が本当に最大パフォーマンスを発揮しているのか、客観的な判断ができないから)、たとえば体重200~300キロの巨大なクロマグロに発信機を取り付けて追跡した実験によれば、最高速度は時速18キロと報告されている。同じようにカジキの最高速度は時速8キロ、サケは時速10キロ、ペンギンの1種は時速14キロ、シロナガスクジラは時速18キロという実験結果が発表されている。

 つまり「カジキ100キロ、マグロ80キロ」の通説は、はなはだしく間違っている。

 どうして海の動物はそれほど遅いのだろう。

『ペンギンが教えてくれた 物理のはなし』(渡辺佑基著、河出ブックス)
渡辺佑基さんの本が出ました! ペンギン、アザラシ、アホウドリ…人間の計り知れない世界を生きる動物たち。その体に記録機器を取り付ける手法「バイオロギング」を用い、驚くべきメカニズムに迫ります。
ページ数:256ページ 出版社:河出書房新社
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