第75回 モヒカンの蛾は、忘却の彼方へ

 ひたすら昆虫と対峙するハードな日々が相変わらず続いている。虫たちの新鮮な刺激で毎日脳がパンパンだ。今回は、そんなパンパンな、ある日のお話。

 その日、ぼくは飼育中のカメノコハムシの餌を採るために家を出たのだが、ほんの7~8歩のところにあるサトイモ科の植物の大きな葉の上に、落ち葉のように見える蛾がちょこんとのっかっているのを見つけた。

 よく見ると「ヘアスタイル」が面白い!
 モヒカン?(上の写真)

葉の上の小さな落ち葉のようなヒラタマルハキバガの一種
A dry leaf mimic ‘mohawk’ depressariid moth
「短いモヒカン」が特徴的だ。
前翅長:約12 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)

 まずは近寄って撮影、それからよく調べるために採集しようと思っていると、モヒカン蛾がいる葉の左下のほうで、何かが動いているのが見えた。

 ハエだ。それもどこかで見たことのあるような・・・。もしかしたら、7年前に逃げられたあの「謎となったミバエ」では!

虫こぶを形成する「謎」のミバエの一種(双翅目:ミバエ科)のメス
A ‘mysterious’ gall-inducing tephritid fruit fly, female
オトハプスというのキク科の植物の新芽に産卵中。おそらく幼虫が孵り、この部分に1センチほどの「ワイングラス型」の虫こぶ(植物の膨らみ)をつくる。虫こぶの中でサナギになって、成虫(ハエ)が出てくる。(写真クリックで拡大)

 7年前、ぼくはこのミバエを育てたことがある。うかつにも写真を撮影中、新種であろうこのハエに逃げられてしまった。オトハプスというキク科の植物の新芽に虫こぶをつくって育つ、ということまではわかったが、残念にも実物がないため、それ以上のことは謎のまま。新種かどうかさえ証明できないままになっていた。

 以降、たびたび探しても見つからなかったあのミバエ(たぶん)が、目の前にいる。
 産卵場所を探しているようだ。

 鼓動が高鳴るなか、じっと観察していると、ミバエはなんとオトパプスの新芽にたどり着き、産卵し始めた。「産卵が終わったら確保せな!」
 どこかへ飛んで行かないかとヒヤヒヤしながら、別のカメラと虫捕り網を持ってきて産卵のようすを撮影、観察し続けた。

 と、こんどは背後の木々にノドジロオマキザルの群れがやって来た。近い!

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2007年に虫こぶから飼育した「謎」のミバエのメス。撮影途中に逃げられてしまった。それ以来、虫こぶを探すが見つかっていなかったので、今回は2度目の出会いとなった。
体長:7 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)
今回採集できたメスには、タカラダニの仲間(赤い点)が2匹くっついていた。ミバエの専門家、スミソニアン博物館のAllen Norrbom博士は、「こんなの見たことない! どこに分類していいのかわからない」とビックリされていた。
体長:7 mm 撮影地:モンテベルデ、コスタリカ(写真クリックで拡大)