File2 漁業復活の処方箋 小松正之
第1回 惨たんたる日本の漁業
「2048年には世界の海で魚が獲れなくなる」
カナダの大学をはじめとする国際チームが、2006年11月にアメリカの科学専門誌「サイエンス」に発表した研究報告である。やや前の話だが、世界中に衝撃を与えた報告だったので、記憶に留めている方も少なくないだろう。
世界中の海洋や魚群の調査データを、2003年までの50年あまりにわたって解析した結果、漁獲された魚のうち29%が、10分の1の漁獲量に減少していた。主な原因は、汚染や乱獲による生態系の破壊とみられ、これは湖や川でも同じ傾向であり、何の対策もしなければ、天然の魚介類は壊滅状態に陥ってしまう、という内容だ。
2050年には人口が90億人を超えると推測されている。食糧不足が懸念されるなかで、自然の恵みである魚介類についても保護に努め、より多くを持続的に食べられるようにすることは人間の義務だろう。しかも、魚のほうが陸上の動物より天然資源としてずっと利用される割合が高い。
近い将来、本当に魚が食べられなくなるのだろうか。もしそうだとしたら、防ぐための手立てはあるのか。
「いまの日本の状況は惨たんたるものです」
漁業の現状をそう言い切るのは、国際東アジア研究センター客員主席研究員の小松正之さんだ。1977年に水産庁に入庁後、30年以上にわたって水産業の発展に尽力。『ウナギとマグロだけじゃない! 日本の海から魚が消える日』(マガジンランド)など多くの著書で、日本漁業の危機を訴えている水産業のオピニオンリーダーである。
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