米軍が駐留するアフガニスタンの戦闘地域では、厳しい訓練を積んだ軍用犬が活動中だ。ある軍用犬と兵士の運命をたどる。

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戦場で兵士を守る犬たち

米軍が駐留するアフガニスタンの戦闘地域では、厳しい訓練を積んだ軍用犬が活動中だ。ある軍用犬と兵士の運命をたどる。

文=マイケル・パタニティ/写真=アダム・ファーガソン

 第一次世界大戦では、数万頭の軍用犬が伝令に使われた。第二次世界大戦で戦場となった太平洋の島々では、森に潜む日本兵を見つけ出すために犬が動員された。ベトナム戦争では4000頭の軍用犬が投入され、見通しの悪いジャングルで活躍したという(だが、米軍の撤退時に多くの犬は置き去りにされた)。

 軍用犬は、過去の遺物ではない。米軍が駐留する戦闘地域では今も、兵士たちと生死をともにする「相棒」として、常時500頭を超す軍用犬が活動している。
 彼らの最大の武器は、人間の10万倍も鋭いといわれる嗅覚だ。訓練を積んだ犬たちは、かすかなにおいを頼りに、武器や爆発物を探し出す。アフガニスタンに配属された、ある軍用犬の働きを見てみよう。

すぐれた嗅覚で爆弾を探す軍用犬

 米国海兵隊のホセ・アルメンタ伍長は、軍用犬に命令を下し、時には生死をともにする「ハンドラー」だ。ジャーマン・シェパードのジーニットとペアを組み、アフガニスタンで即製爆発装置(IED)を見つける任務に就いている。

 軍用犬と一口にいっても、すべての犬が戦闘に適しているわけではない。暑さに弱い犬もいれば、事前に訓練してあっても、戦場で銃声や爆発音に興奮してしまう犬もいる。そうしたなか、戦場で力を発揮しやすい犬種として定評があるのが、ラブラドール・レトリバーやベルジアン・マリノア(ベルジアン・シェパードの一種)、それにジャーマン・シェパードだ。

 気温50℃近くありそうな砂漠地帯の猛暑のなか、ジーニットはアルメンタの命令に従い、地中に埋まったIEDを探す。手がかりは、硝酸塩のかすかなにおいだけ。爆発が起きれば真っ先に犠牲になる、危険な任務だ。

 2010年に沖縄でペアを組んだとき、ジーニットの耳にIDを示す「N103」という入れ墨が入っているのを見て、アルメンタは軍用犬が軍の装備であることを理解した。沖縄では、訓練が終わると必ずジーニットを犬舎に戻した。犬に接するときには、声や行動を通じて、ハンドラーが上位であると犬に認識させる。

「犬はよちよち歩きの幼児と同じです」。アリゾナ州にあるユマ性能試験場でアルメンタとジーニットの訓練を担当した、海兵隊のクリストファー・ナイト一等軍曹は言う。「食べ物や水など、基本的な欲求を満たしてやり、何をすべきかこちらが指示する必要があります。上下関係がないとうまくいきません。あくまでハンドラーが上位に立つ必要があるのです」

 もちろんアルメンタもこの原則に忠実に、あくまでプロフェッショナルとしてジーニットに接していた。もしジーニットが任務で命を落としたとしても、次の犬とペアを組むだけだ。アルメンタは涙一つこぼさなかっただろう。

軍用犬ハンドラーを襲った悲劇

 アルメンタとジーニットの運命が一変したのは、2011年8月のある日のことだ。
「あの任務では、誰かがやられそうな気がしていた。毎日爆発が起きていたし、現場に行くのはとても危険だったからね」と、同じ部隊の兵士は後に語った。

 タリバンが爆発物を仕掛けたという危険地帯の偵察に赴いた一行は、次から次へとIEDを発見した。埋設パターンを見つけつつあると、アルメンタは感じていた。ジーニットが先行し、少し距離をあけて後ろから、アルメンタがついていく。……次の瞬間、地面が揺れ、耳をつんざく爆発音が響いた。

※ナショナル ジオグラフィック2014年6月号から一部抜粋したものです。

編集者から

4月号「風変わりなペット」に続き、またも複雑な気持ちにさせられた動物ものの記事。軍用犬の意義や役割が淡々と語られていますが、人間の犬に対する愛もこの物語のテーマの一つ。最初は相棒である軍用犬を「軍の装備」としか見ていなかった主人公が、爆発で重傷を負った日を境に変わっていきます。最後は少し希望をもてる終わり方なのが救いでした。
 今回、犬の嗅覚器官の解説を翻訳するにあたって、獣医師で犬の解剖学に関する著作『続・ぼくとチョビの体のちがい』もある佐々木文彦先生にアドバイスをいただきました。この記事で犬の体の仕組みに興味を持った方は、佐々木先生の本もチェックしてみるといいかもしれません。(編集M.N)

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