なぜ? と最初は思った。LHC加速器は陽子と陽子を衝突させるもののはず。ヒッグス粒子の発見は、その方法で成し遂げられたものだ。しかし、よくよく聞くと、実は1年のうちの1カ月、鉛の原子核をぶつける研究に費やしているという。それがまさにALICE実験なのだ。

「鉛の原子核は重たくて、陽子のおよそ200倍の質量(鉛208)がありますから、加速するとずっと高エネルギーを実現できます。それで、およそ1000テラ電子ボルト(TeV)のエネルギーを約1兆分の1センチ立方の非常に小さな点に集中してやることで、ごく短時間、極小のクォーク・グルーオン・プラズマ状態が再現されると考えられているんです。粘性のない液体のような状態の物質です。その後、すぐに冷えて、通常の原子核物質に変わって、それが検出器に届くわけなんですが、そこから出てくる粒子をほぼすべてはかって基礎的なデータを集めているところなんです」

鉛のイオン同士の衝突をはじめて検出したときの様子。(画像提供:ALICEグループ)(画像クリックで拡大)

 クォーク・グルーオン・プラズマは、ほとんどの物理学者が存在を信じており、また、ALICEの実験でも、実際に作り出されていると信じるに足る証拠が積み上げられつつあると言ってよいそうだ。そのために、実現した温度は、なんと5兆度! これは人類が人工的に作り出した最高の温度でもある。どうやら、2兆度よりも冷たいとクォークは通常物質に閉じ込められてしまうそうだ。いずれにしても、非常な高温の世界ではあるが。

「こういったことは、宇宙が始まってほぼ1マイクロ秒後に起きていたことだと考えられているんです。我々はその状態を実験室で非常にもっと短いスケールでつくり出すことができるんだと言ってよいと思います。さらに、来年からのLHC加速器のRUN2以降、より高い衝突エネルギーにいけると思っています。以前の実験では、軽いクォークばかりでチャームクォークなどの重たいクォークが少ないQGPができていたと思われるんですが、ALICE実験では、RUN1の段階でも、チャームクォークが格段に増えていました。RUN2以降、それを積極的に使った測定が飛躍的に向上すると期待しています」

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