第6回 5兆度!の宇宙が始まった頃を再現してみた

 大山さんは、この流れの中で、ALICEで使われている様々な検出器についても、詳しく語ってくださった。その時の様子は、実に楽しそうに「夢中」な雰囲気で、ここで紹介する「紙幅」がないのが申し訳ないほどだった。

 そして、その「夢中」なところが、登場していただいた近藤敬比古さん、戸本誠さんらとも共通すると感じた部分。それぞれ、少年期に抱いた宇宙への興味やら、工作への情熱を語ってくださったっけ。

 他にも言葉を交わす機会があった方々を含めごく少ない標本数だが(10人未満です、スミマセン)、CERNには、そのような元天文少年、元工作少年が集っているのかもしれないと感じるには充分だった。「少年」といっても、こと男性に限ることではない。昼食時、カフェに集った若き日本の研究者たちにも、大山さんのALICE実験の研究に集う20代の研究者たちにも、女性は決して少なくない。

 そして、そのような属性を持った男女が、興味をこじらせて(深めて)、世界始まって以来、いや、宇宙始まって以来の究極の探索をしているのが、LHC加速器による「エネルギーフロンティア」なのかもしれない。

 非常にお金がかかるにせよ、繊細かつ重厚な技術。それによって明らかにされつつある科学的真実の描像に圧倒されつつも、ここではこういった「印象」を大切にさせていただく。かつて星空を見上げたり、プラネタリウムに通ったり、電子・電気工作に熱中した子の、いくばくかが、このような場所を見いだし、人類史・科学史に残る仕事をしているのだとしたら……同年代に似た興味を抱いていた者として、誇らしさを感じてよかろう、と。

CERNはワールド・ワイド・ウェブの故郷でもある。最後に余談として。(写真クリックで拡大)

『神の素粒子 宇宙創成の謎に迫る究極の加速器』
ポール・ハルパーン著
武田正紀訳、小林富雄日本語監修

「神の素粒子」ことヒッグス粒子の発見を目指すCERNと、そこに至るまでの素粒子物理学の道のりをドラマチックに描いたサイエンス・ルポルタージュ。CERN、素粒子物理学、加速器実験などについてもっと知りたい人はどうぞ。
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おわり

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider