第6回 5兆度!の宇宙が始まった頃を再現してみた

「QGP、クォーク・グルーオン・プラズマをつくりだす実験です」というのが端的な答えだ。

 実は、ぼくはこの瞬間まで、QGP、クォーク・グルーオン・プラズマなるものについて知らなかった。そして、その意味を知ると、魅了された。なぜなら、それは、宇宙の始原に非常に密接にかかわるものだったからだ。今の我々のまわりには存在しないが、宇宙が超高温だった初期に見られたはずの知られざる物質のあり方、というか。

「クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)というのは何かというと──あくまで例え話なのですが、水を考えてください。固体の状態、氷の温度を上げると液体になって、さらに温度を上げると気体、水蒸気になって、さらに温度を上げるとプラズマ、原子核、陽子や中性子にまでになると。そこまでわかってますけど、さらにその上に何があるのか、恐らくこうだろうというのが、QGPです。超高温もしくは超高密度の極限状態では、陽子や中性子の中に閉じ込められていたクォークやグルーオンが自由粒子のように振る舞っているような、新しい物質相ができるのではないかと考えられているんです」

 陽子や中性子というと、ただのボールみたいなものをイメージするかもしれない。しかし、その中にはクォークがある。陽子なら2つのアップクォークと1つのダウンクォーク。ただ、それらがバラバラになるようなことは普通ない。グルーオンという糊の役割をする粒子が、「強い相互作用(強い力)」で閉じ込めているからだ。このようなことは、素粒子物理学を解説する一般書にも書いてある。

「では、どうやってそれを人工的につくるかですが、人類ができる唯一の方法は、重たい物質の原子核をほとんど光速まで加速して衝突させることです。ALICEでは、鉛の原子核を使っています」

通常物質(左)とクオーク・グルーオン・プラズマ(右)のイメージ図。通常物質ではクオークがグルーオン(イメージではバネ状)でくっついて陽子や中性子などに閉じ込められているのに対し、超高温もしくは超高密度の極限状態では、クオークやグルーオンがばらばらになって自由にふるまうようになるという。(画像出典:CERN)(画像クリックで拡大)