ふと、座り込んでいる犬たちを見ると、彼らの頭上にまん丸の月がぽかりと浮かんでいる。

「満月ならば、夜の森も心細くないね……」

 私はそう呟くと、トーニャは言った。

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「これからが、犬橇の醍醐味よ。夜の森の中を走るのは、最高の気分」

 私は、「怖くないの?」と聞いた。

 夜の森というのは、お化けが出る墓場と同じくらい気味が悪いものだ。

 でも、トーニャは微笑んで言う。

「犬たちが一緒だから、何も怖くないわよ」

 確かに、犬たちがいるのは心強い。

 夜の森ともなれば、オオカミの集団が出てくるかもしれないし、もしかして、冬眠から覚めはじめた熊に出くわすかもしれない。

 私たちは食事を済ませると、すぐさま橇を出した。

 辺りは懐中電灯がなければ見えないくらいに暗くなってきている。

 林の中は、急なカーブもあれば、橇がいきなりドンと落とされるような段差になっているところもある。

 ヘッドランプの明かりを頼りに、顔にぶつかりそうな木の枝も避けなければならない。

 まったく気が抜けない夜の森の走行だけれど、当初の恐れも全くなくなって、なんだか夜の森を楽しむようになっていた。

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