第90話 夜の森は、まるでお化けの出る墓場?

 極寒恐怖の生肌さらし着替えを済ませると、トーニャが今まで以上に真剣な顔つきでやって来た。

「この先は、この行程のなかで一番の難所。命に関わることにもなりかねない危険な場所よ」と言う。

「え、命?」

 私は聞き返した。

「そう、絶対に気を抜いてはダメよ」

 トーニャは硬い表情でそう言った。

 汗だくになってやっと登ってきたこのツンドラの丘を、今度は下ることになるのだが、まっすぐ下に降りていかないで、斜面を横断するように降りていくのだそうだ。

 スキーで言うと、垂直に滑降するのではなく、斜面の山側に体重をかけてエッジを利かせて横に滑っていくようなものだ。

 犬橇では、もしも谷側にバランスを崩してしまった場合、橇が横倒しになって転げ落ちてしまう危険性もあるのだ。

 例えば、雪山登山家が誤って斜面を滑り落ちてしまった場合、ピッケルを雪の斜面に突き刺して、滑り落ちるのを止めることができる。

 けれど、マッシャーは丸腰。

 橇は転がり落ちると、そのままどこまでも行ってしまうだろうし、犬たちも巻き添えになる。

 私は、これから行く斜面のキツさを見て、息を飲んだ。