第5回 神の素粒子の次なるターゲットとは

「対称性粒子の中で、安定なものは、宇宙にあるとされる暗黒物質の候補です。また、超対称性があると分かれば、理論的にも、ヒッグスによってすでに実現できている電磁気力と弱い力の統一だけでなく、強い力まで力の統一ができる可能性があります。ヒッグスの質量の不自然な計算も解消できるし、暗黒物質も説明できる、力の統一もできる新しい物理の発見。RUN2以降にそういうところまで進めるのではないかと期待しているんです」

 ここで指摘しておきたいのは、素粒子というミクロの世界を見ていくと、結局はマクロの世界である宇宙の問題に肉薄することになる、ということだ。

 この宇宙で、我々がよく知っている普通の物質は5%しかなく、直接観測できないが重力を及ぼす暗黒物質が23%、さらに謎めいた暗黒エネルギーが72%を占めていると分かっている(本連載ではマックスプランク宇宙物理学研究所の小松英一郎所長の回を参照)。これは宇宙の観測から導かれたもので、暗黒物質も、暗黒エネルギーも、どのような素性かは詳しく分からない。一方、素粒子理論の研究からは、暗黒物質の候補として、未発見の超対称性粒子が挙げられている。2015年に予定されているLHC加速器のRUN2以降、その発見に届く可能性がある。

「ヒッグスが革命の始まり。そして、まだ革命は続く」と戸本さんは言った。

 まさに、である。

19世紀の英国の物理学者マクスウェルが電気の力と磁気の力が実は同じ力(電磁気力)であることを示したように、さまざまな力を統一して説明する試みから標準模型が導かれた。ヒッグス粒子により標準模型が完成したと報じられることもあるが、すべての力を統一する理論はまだずっと先にある。次なるステップと目される「超対称性理論」の手がかりとして戸本さんが有力視する素粒子が暗黒物質(ダークマター)だ。(画像提供:近藤敬比古)(画像クリックで拡大)

『神の素粒子 宇宙創成の謎に迫る究極の加速器』
ポール・ハルパーン著
武田正紀訳、小林富雄日本語監修

「神の素粒子」ことヒッグス粒子の発見を目指すCERNと、そこに至るまでの素粒子物理学の道のりをドラマチックに描いたサイエンス・ルポルタージュ。CERN、素粒子物理学、加速器実験などについてもっと知りたい人はこちらもどうぞ。
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つづく

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider